人事担当役員メッセージ

「Our Philosophy」実現の鍵は、
健全な企業風土

写真:執行役員 人事総務本部長 井川 潔

執行役員人事総務本部長井川 潔

「経営者の質」がすべての起点

中長期的な人材戦略の一つとして、人的資本の強化は不可欠ですが、そのためにはまず「経営者の質」向上に取り組むことが重要だと考えています。
「経営者の質」を上げることによって社員のやる気に火がつき、「社員の力」と「社員のエンゲージメント」が向上します。それが良い仕事につながり「商品とサービスの品質」が高まる。その結果、住友ゴムの商品やサービス、社会のなかで果たす役割に対する評価が高まり、「お客様や社会の満足度」も向上し、これが業績に反映されることで配当も増え、「株主の満足度」も向上します。これら6つのステップが、一つのサイクルだと捉えています。
このようにすべての起点は「経営者の質」にあると考え、2020年、社長の山本を筆頭とした役員、国内の管理職以上に360度フィードバックを導入しました。さらに役員一人ひとりにエグゼクティブコーチを付けることで自らのマネジメントスタイルを常に振り返りながら事業や組織、職場運営をする仕組みとしました。
この取り組みの一環として、週に一回コーチ陣から役員全員にリーダーシップをテーマとしたメールマガジンが発行されます。その時々にふさわしいテーマが投げかけられ、各人が忌憚ないディスカッションをするうちに、ベクトルが合い一枚岩になっていく。そんな仕掛けがあるのも特徴的だと思います。
また意思決定のスピードと質をレベルアップするために2023年からは、4名の社内取締役が一つの部屋に集まり、自由闊達に意見交換できる環境を整えました。各領域の執行役員も、その部屋を訪れれば取締役との情報共有や相談が一度にでき、一体感を高めることもできます。
こういった取り組みを通じ、経営陣の一枚岩感が次第に醸成されてきましたが、その“一枚岩感”をもっと身近なものとして社員に知ってもらおうと、“役員との語る場”として、社長以下役員がビジネス課題や仕事観などについてそれぞれ考えていることをざっくばらんに語るセッションをオンラインで配信し、好評を博しています。
はじめに述べたサイクルは、新中期計画(以下、新中計)のターニングポイントになる2025年には、順調に回っていると思います。

モノづくりの現場との一体感醸成を

2023年2月に新中計を発表しました。それに伴い、社長も含めた経営幹部が各拠点へ出向き、新中計の内容を直接社員へ説明する対話の場をスタートさせました。
当社はモノづくり会社です。モノづくりの現場が、会社と一体感を感じ、さらに活気ある組織になっていくために、24時間交代制で働いている製造現場の社員の方々にも、ヒントをもらいたいと思っています。
単に社長から“会社の事業計画はこうです。皆さん頑張ってください。”では、一体感を感じづらいと思います。製造の最前線で働く方々が日々何を考え、どんな会社の姿を望んでいるのか、真摯に向き合い、耳を傾けるところからスタートしようと思っています。
社長の山本の“皆さんがいるから、会社がある”といった、心の底から自然に湧き出るような期待感をしっかりと伝えながら対話を重ねていくことで、一体感が徐々に醸成されていくのではないか。私はそう考えています。

次世代経営人材を計画的に輩出する仕組みをつくる

「経営者の質」を向上させるもう一つのポイントは、経験の多様性による広い視野と、勝ち筋を見つける力を備えた人材を計画的に輩出することだと考えています。言い換えれば、次世代を担ってくれる人材に成長につながる経験を計画的に数多く積ませることです。その取り組みを進めるにあたっては、まず人材の可視化が必要になります。それぞれの部門で、3年後、5年後、10年後に誰が輝いてくれそうか、を明らかにしていきます。80余りの部門から推挙された3年後に部長を任せられるだろう人材は100人前後、さらに10年先を見渡すとその数は3倍ぐらいに増えます。
可視化では、候補者がどういった能力−−例えば論理的思考力や対人力−−に秀でているかを各種アセスメントや360度フィードバックの結果を踏まえながら多面的に明らかにし、不得手な能力は研修などでレベルアップを図ります。そして人事異動で、成長につながる役割を与え、実践力を磨く場を付与していきます。そうすることで自分が培ってきた専門性が利かない領域においても、しっかり実績を出せるリーダーが育っていくと考えています。
このように座学と実践を組み合わせながら計画的に基幹人材を作っていくタレントマネジメントの仕組みを構築することが、非常に重要と考えています。実際の運用にあたっては事業部門に任せきってしまうのではなく、取締役以上で構成される人事委員会でも議論していきます。

組織体質の改善に終わりはない

当社では2020年9月から、約20問で構成した“組織体質アンケート”を自社内で作成し、実施してきました。6段階評価の設問になっていて、4点以上をポジティブな回答と捉え、これを8割以上の社員が組織体質をポジティブに捉えるという目標を設定しています。そして、すべての部門の調査結果を公表し、誰でも見えるようにしました。
調査を始めた背景として当社の組織課題である「挑戦しづらい環境」「コミュニケーションの壁」「古いリーダーシップスタイル」「戦略浸透不足による低い生産性」を定量的に可視化し、改善の度合いを科学的に検証していきたいという想いがありました。
そして、調査結果を踏まえて組織体質改善のタスクフォースのキックオフをしたのが2020年3月。具体的には、各部門から、その部門の組織課題に向き合う“タスクフォースアンバサダー”を選出してもらい、約50名のメンバーがそろいました。「そもそも、なぜ組織体質を改善しなければいけないのか?業績とどういう関係があるのか?」からスタートし、約半年かけて動機付け、ベクトル合わせを行いましたが、ここに、時間と労力をかけたおかげで、その後は順調に立ち上がっていきました。
こうした取り組みの結果、例えば、「挑戦しやすい環境がある」といった設問のポジティブ回答率が8割を超えるなど、企業風土として、失敗しても叱責したり減点評価したりせず、その挑戦自体を称賛する雰囲気ができてきたと感じています。
ただし、低い生産性の課題はまだ改善の余地がありますし、組織体質は、環境や人の組み合わせでどんどん変化しますので、組織体質改善の取り組みに終わりはないと考えています。
そして組織体質の改善がサステナブルな職場づくり、ひいては質の高い人材の確保、事業の継続につながるため、ビジョンをしっかり伝え現場とベクトルを合わせていけるよう、継続して対話と取り組みを行っていきます。
組織体質改善のこれまでの取り組みを踏まえ、立ち上げたのが、CX(コーポレート トランスフォーメーション)プロジェクト推進室です。中期計画の実行に必要なのは実行力ですが、その実行力を技やスキルとモチベーション、つまり“やる気”の掛け算だと捉え、CXプロジェクト推進室では、その“やる気”に火を付けることを一番の取り組みテーマにしています。
次に、組織としての規律。健全な緊張感が醸成できるように、パフォーマンスの高さが適切に評価され、処遇されるような人事制度への刷新など、旧来構造のさまざまな仕組みを変革していきます。また、DXを通じた業務改革で生産性を上げる仕掛けにも取り組んでいきます。
つまり、これまでの事業運営モデル、組織運営モデルをガラッと変え、よりイノベーティブな組織への生まれ変わりを狙います。

「Our Philosophy」の実現に向けて

「Our Philosophy」実現の鍵は、健全な企業文化の醸成に尽きると考えています。
英語の格言に、”Culture Eats Strategy”という言葉があります。良い戦略が実現されるには、まず、良い企業文化が欠かせないということです。
では、どのような企業文化が良いのかといえば、“健全な緊張感”だと思います。今日よりも明日、明日よりも明後日、毎日少しでも良くしていこうと足掻き、考え抜き、挑戦しようとするマインドに溢れている。そのような社員で構成される組織が一番強いと思います。そのような真っ当なことを心掛け、実践する社員がちゃんと報われる環境を準備しなければなりません。健全な緊張感で皆が自律的に頑張ろう、伸びようと思う企業文化には、自然と挑戦も紐づいていきます。
このような企業文化を実現するための取り組みは、状況に応じて改善していかなければいけませんが、それを測るバロメーターが先ほど述べた“組織体質アンケート”です。すなわち、定量スコアをKPIとして定点観測し、取り組みの是正や微修正を図っていきます。
今回お伝えしたような改革・改善の取り組みにしっかりと向き合い、「Our Philosophy」の実現に近づいていけば、自ずと財務成績もついてくると考えています。