誰もが働きたい工場を目指して
2024年7月に「はたらきたい未来の工場プロジェクト」を立ち上げ、製造現場での諸課題の解決に工場と本社が一体となって取り組んでいます。
今回、プロジェクトに工場から参画するメンバー3名が集まり、製造現場の課題を語るとともに、従業員が働きたいと思える職場環境の整備に向けた提言を行いました。
小原
宮崎工場で工場長を務めています。日本では若年層の製造業に従事する割合が年々減っていますが、当工場でも将来に向けて製造部門での人材を確保できるのか危機感を抱いています。誰かが休んだ際に他の人が代わりを務められるよう多能工化を進めるなど取り組んできたものの、肉体的に負荷の高い業務内容や働き方に対して現場が疲弊していると感じています。
岡本
泉大津工場で課長代理を務めており、製造部門の監督をしています。製造現場ではこれまで生産性の向上が最優先事項であり、それに限られた人員で対処せざるを得ず、働き方や労働環境の課題解決は二の次となってきました。休暇制度はあっても、現場では休みを取りにくいという実情もあります。これまで会社の施策を通じて、従業員の処遇など少しずつ改善は進んできましたが、工場の老朽化への対応など、取り組むべき課題は多いです。
大熊
名古屋工場にて品質管理業務を担当しています。入社後、工場の生産技術部門に配属され、その後本社で数年間設計業務を経験して、再び工場に戻ってきました。その10数年の間、製造現場で働く人たちの環境改善は進んでこなかったと感じています。また、工場は相変わらず男性中心の職場であり、女性が能力を発揮しづらい点も以前のままです。
小原
こういった工場の課題については現場ごとの属人的な対応に依存してきた面があり、改善の余地が大きいと感じていました。
大熊
こうした実情に対して、本プロジェクトの前身となるROESGプロジェクトの一チームである「女性技能員比率向上チーム」が2021年に立ち上がりました。女性技能員の増員や女性活躍推進を目的に活動を進めている中で、根本的な環境改善や働き方の改善を行うにはしかるべき予算が必要でありました。このほか、全社的なルールも見直さねばならず、現場レベルでの取り組みだけでは課題解決は難しいと痛感しました。その結果、ROESGプロジェクトの期間終了に伴い、全社横断の本プロジェクトへの発展となったわけです。
岡本
大熊さんたちが取り組んできた女性のための現場改善の成果については、泉大津工場にも伝わっています。作業改善に関する事例の工場間での共有や、トイレをはじめとする厚生設備のリニューアルなど、状況は少しずつ変わっていると感じます。
大熊
女性にとって働きやすい職場というのは、性別や年齢などに関わらず誰にとっても働きやすい職場です。例えば、女性の目線で作業棚の高さを低くしたところ、男性からも「これは使いやすい」と好評でした。これを踏まえて、未来において誰もが働きやすい工場を目指すというのが「はたらきたい未来の工場プロジェクト」における議論の出発点です。
小原
本プロジェクトのオーナーは國安取締役・常務執行役員が務めています。タイヤ事業の国内4工場(宮崎工場、泉大津工場、名古屋工場、白河工場)を対象に、工場および本社の関連部門が連携して製造現場の諸課題に取り組んでいく体制を整えました。工場のメンバーに加えて、本社の人事部門とモノづくり部門が参画し、全社横断で工場の課題に取り組むことになりました。
取り組みの範囲を全6工場からタイヤ4工場に絞った理由は、生産している商材が異なると生産設備や労働慣行が異なり、改善に向けた一貫した取り組みが難しくなるためです。加えて、グループ内工場のマザー工場である国内工場の環境改善が急務と考え、まずは日本国内のタイヤ工場からスタートしています。
私は工場側のリーダーとして本社の各部署と連携し、プロジェクトを進めていく立場です。2024年に実施した各工場でのヒアリング調査から、働き方や労働環境、評価処遇、組織風土に至るまで数多くの課題が浮上しました。
岡本
福利厚生など、働きやすさに関する制度は整っているものの、現場における制度の運用は十分とは言えません。これら制度を工場で働く従業員が本社の従業員と同じように使えるよう、2035年の「ありたい姿」の設定も行いました。
小原
従来は各工場まかせの取り組みだったところを、トップダウンで重要な優先課題に位置付けられたことで、今後取り組みの加速が期待されます。山本社長をはじめとして、役員が各現場を視察するとともに、現場の声に真摯に耳を傾けたことで、プロジェクトの重要性が広く認識されてきています。
また、プロジェクトの立ち上げ以降、それぞれの課題に対して複数のワーキングチームが活動を開始しました。すでに足元の課題への施策として、休みやすい工場操業カレンダーへの見直しや、作業負荷の低減・厚生設備のリニューアルなど労働環境の改善などに取り組んでいます。
小原
本プロジェクトを進める中で、それぞれの課題に対する責任所在が不明確であったり、主幹部門が決まっていないものが多々あったりすることが判明しました。本社と工場が一緒に取り組めば解決するというものではなく、経営層やプロジェクト参画部門以外の部門も巻き込みながら、これまで手を付けてこなかった問題に取り組まねばなりません。
岡本
同じタイヤ工場といっても、それぞれ歴史が異なり、規模も異なります。泉大津工場について言えば、敷地がそれほど広くなく、限られた施設と人員の中で品質や生産性の向上、そして従業員の働きやすさに取り組まねばなりません。
大熊
名古屋工場は生産現場の設備レイアウトの制約が大きく、運搬作業など肉体負荷の高い作業を自動化できない悩みがあります。また、地域柄、近隣に大手メーカーの工場が多く、人材獲得競争が激化している実態があります。
小原
宮崎工場について言えば、まだなんとか採用活動の頑張りで必要人員数を採用できていますが、年々応募者数が減っていることは実感しています。今後周辺エリアの人口減少は避けられず、今から将来に備えなければいけません。
3工場の事情を取り上げるだけでも、異なる課題があることは明らかです。この点、工場の人的資本に対する投資の優先順位が必ずしも高くなかったことを反省しなければなりません。その上で、国内における生産をどうしていくかという経営のビジョンが必要です。課題の解決に対して、尽きるところ経営層がどう考えるかにかかっています。
一方で、現場で働いている我々が自らの仕事に対する誇りを持ち、やりがいを感じられることが大切です。プロジェクトの施策を進めていくのに加えて、従業員の満足度など投資効果を評価する方法も検討中です。
岡本
一人ひとりの仕事が価値あるものだという思いを共有することが必須であり、そのためには経営層はじめ組織のリーダーがモノづくりに対する意義を伝える必要があると考えます。
小原
社内における広報も大切だと考えます。宮崎工場では社内の食堂に据え付けた大型モニターを通じてプロジェクトの概要を伝えるなど、働く仲間に向けた情報発信を行っています。それによって、次の改善への期待感を抱いてほしいです。
大熊
さまざまな施策を従業員が自分ごととして認識してほしいですね。そのために施策の伝え方も大切です。例えば、女性向けの労働環境の改善というと男性には関係ないと受け止められがちですが、シニアも働きやすい職場づくりとすれば、性別に関係なく、関心を持ってもらえます。
小原
2035年の「ありたい姿」として掲げた「安心してイキイキと働くことができ、モノづくりへの誇りとヨロコビを感じられる工場」は、プロジェクトメンバー全員で議論を重ねて決定しました。プロジェクトの推進は、この2035年に実現したいありたい姿からバックキャストで検討する施策と、ありたい姿に向かって足元の課題解決を積み上げていく施策と、2本柱での取り組みを行っています。
プロジェクトを通じて各工場と本社がこれまで以上に連携を深めて情報交換を密にしています。一例として、有給休暇の取得や教育時間の確保をしやすくするため、工場と本社の生産計画部門にて、人員計画作成ルールの見直しについて議論しています。また、作業環境改善の予算枠拡大をはじめとして、本社チームの動きで実現したことも多くあります。
岡本
本プロジェクトを通じて、現場の切実な声を組織の上層に提言する機会が増えてうれしいです。たとえば、夏場には気温が40℃を超えるような工程への暑熱対策に関して、2024年に続いて2025年も予算がついて環境改善の投資が可能になりました。
大熊
国内のタイヤ工場は総じて設備の老朽化が進んでいて更新が大きな課題です。一方で、海外の工場は比較的年数が経っていないとはいえ、10数年後には老朽化の問題に直面します。また、日本のように少子高齢化が進み労働人口減が社会問題になりつつある拠点もあります。それを見据えて、まずは国内工場においてプロジェクトを通しありたい姿実現に向けた成果を上げることが重要と考えます。その成果を将来グローバルの拠点へと広げていくことができるはずです。
岡本
設備に関しては、In-House New Factoryへの転換も大きな課題です。現状の設備を稼働させながら更新していくのは簡単ではなく、空きスペースの有効活用を考えなければいけません。
小原
既存設備が動いている中で、生産のさらなる効率化、省力化、自動化を進めるのは難しいです。しかし、困難だからこそ挑戦のしがいがあるわけで、製造現場でのイノベーションの良いきっかけとなるでしょう。当社は何でも挑戦させてもらえる風土がありますし、今回のようなプロジェクトをやるとなったら、経営陣が真摯に耳を傾けてくれます。これからの世代の方々にぜひこういった社風を理解し、モノづくりに対する誇りと挑戦への意欲を持って活躍していってほしいです。
岡本
個人的な話をすると、自分自身は先輩方に育てていただき一人前になることができたといつも感謝しています。だからこそ恩返しをしたいですね。若い人をしっかり指導して、未来の工場を担う人材を一人でも多く育てていきたいです。
大熊
私は入社して以来、かっこいいタイヤを作りたいという思いで業務にまい進してきました。今はかっこいいタイヤを作るための、かっこいい工場を目指したいという気持ちが強いです。そして国内でナンバーワンの工場、ナンバーワンのタイヤメーカーを追求していきたいです。10年後に「現在の躍進は2025年のプロジェクトから始まった」と胸を張れるように、プロジェクトメンバー全員で推進していきます。