技術担当役員・本部長鼎談

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先進技術を追求してきた企業風土を糧に、
研究開発に携わる一人ひとりのやりがいを高めつつ、
時代をリードする技術開発に注力していきます。

執行役員
タイヤ事業本部 技術本部 副本部長

田中 進

取締役常務執行役員
タイヤ事業本部 技術・生産統括

村岡 清繁


研究開発本部長

上坂 憲市

当社における技術開発の主要メンバー3名が集まり、当社の技術的な強みをはじめ、今後の技術戦略のあり方、イノベーションの創出に向けた取り組み、そして人材育成の重要性などについて意見を交わしました。

先進技術における独自性と協調性でグローバルでの存在感を発揮

村岡

当社が手がけるタイヤをはじめとしたゴム製品は、ゴム原材料を主体に何十種類もの配合剤や構造材を用いて、求められる機能や品質を追求していきます。当社の強みは、多岐にわたる材料を組み合わせる技術、もしくは材料の最適化を図る技術を持っていることです。そして、最適化を進める上で大切なのは、物性の解析やシミュレーションの技術であり、これらの点についてはどこにも負けないという気概を持って常に先進性を追い求めています。また、当社はタイヤ業界でシェアトップのメーカーではありませんが、その分、ものづくりの独自性や他社にはない価値の創出に力を注いでいます。タイヤは使われ方が千差万別で、それに合わせて最適化を図ることで可能性はまだまだ広がるので、ほかでは真似のできない高付加価値タイヤの開発に注力しているところです。

上坂

ゴムの性能発現メカニズムは完全に解明されていない部分が多々あります。それを一つでも明らかにして、研究開発や性能発現の最適化に活かすことで新たな価値を生み出すきっかけとなります。ゴム技術の進化のサイクルを繰り返していくことで、当社ならではのものづくりができると考えています。

田中

私は製品設計を長年手がけてきたことから、研究開発で判明したゴムの性能を発揮させるタイヤづくりに注力しています。中でも、路面と接するトレッドと呼ばれるタイヤの外皮部分のパターン設計が重要で、これによって安定性や排水性といったタイヤに求められる性能が変わります。また、トレッドのパターンについては、お客様の嗜好性に応えることも重要な要素であり、社内では「お客様に寄り添って合わせ込む」という言い方で市場性に富んだ製品開発を行っています。

上坂

当社が得意とする解析やシミュレーションの技術についてさらに言うと、データを解析するハードウエアの処理性能が劇的に進んでいる中で、それをいかに活用するかの勝負になっています。研究開発の場で普及が進む生成AIについても活用を進めているところです。当社にはタイヤの使用状況に関する膨大なデータの蓄積があり、これが今後のビジネス展開で威力を発揮すると期待しています。

田中

タイヤの開発においては、カリスマ設計者といわれるように、ブラックボックス化された匠の技術、ノウハウが重宝される面があります。こうした知識と技術を生成AIに学習させることで高度な技術の共有や伝承、人材の育成につながるはずです。

村岡

これからの時代、タイヤのビジネスで重要な点は当社でしかできない差別化製品が必要である反面、独自性ばかり追求していてはグローバル展開が難しくなります。他社に先駆けて新たな価値を生み出しつつ、それがタイヤ市場におけるデファクトスタンダードとなる取り組みが欠かせません。その点、当社は新しいことに次々に挑戦して独自の価値を生み出しつつ、世界に向けて発信しています。
一例としては、バイオマスとリサイクル原材料を使用したサステナブル原材料比率の高いタイヤの開発が挙げられます。加えて、大きな可能性をもたらすのが、ビッグデータに基づくデータリングを強みとしたサーキュラーエコノミー構想である「TOWANOWA(トワノワ)」です。技術の強みに加え、データの活用によって社会課題の解決を目指しつつ、収益機会の拡大を図る考えです。

田中

村岡さんの指摘の通り、これからの時代にビジネスを広げていくには独自性と協調性の両方が求められます。たとえば、EV(電気自動車)が普及していく上では自動車メーカー1社だけが独自技術を追いかけて対応できるものではなく、各社が切磋琢磨しながら、EVに求められる性能や環境整備を追求していく必要があります。同様にタイヤでもサステナビリティという観点については業界全体で取り組むべき課題と考えます。

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守りの知財戦略から攻めの知財戦略への転換

村岡

当社の優位性と競争力をさらに高めていく上では、知的財産戦略が重要性を増しています。従来、知的財産は幅広い分野で取り組んできましたが、近年は事業戦略に即した特許の取得に重点を置いています。一方で、ものづくりに関する特許だけでなく、ソフトウエアやサービスなどの面でも権利の確保を目指しています。そして、製品開発に必要な特許取得といった、いわば守りの知財戦略から、製品開発で足りないピースを求めるという攻めの知財戦略へと大きく転換しています。

スマートタイヤコンセプト関連公開特許件数推移(テーマごとの累積件数)

スマートタイヤコンセプト関連公開特許件数推移(テーマごとの累積件数)
※ NGB株式会社調べ
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上坂

差別化、先進性の文脈で技術戦略をとらえると、先端分野の技術をものにして権利化していくのは当然として、それを世の中に広めて賛同者を募っていくことがますます重要になっていきます。それは先輩たちがよく言っていた「自分たちが時流をつくる」ということです。先端技術をタイヤだけにとどめるのではなく、幅広い分野での応用を目指すことで、技術戦略を通じた事業機会の拡大が可能になります。

田中

私たちは現在、保有する特許の有効活用方法と、将来の技術開発に向けて当社が目指す分野で必要となる権利をどう守るかを重要な課題として考えています。このため、製品ごとにベンチマーク調査を実施し、現状の位置付けをはっきりさせ、今後取得すべき特許について計画的に整理する作業を進めています。

夢中で取り組める環境づくりがイノベーションには重要

村岡

技術開発の過程では、ロードマップ上で着実に成果を上げていく部分と、いわば非連続のイノベーションを創出させる部分の二本立てが必要な時代です。この点において、研究開発本部が果たす役割が重要性を増しています。

上坂

村岡さんの指摘の通り、研究開発本部の使命の一つはイノベーションの創出です。しかし、これは指示されたことを手がけていれば、自然と生まれるものではありません。私が思うに、真のイノベーションを生み出すためには、研究開発職の人たちが自ら興味のあることに夢中で取り組むことが肝心だと考えています。
もちろん、夢中になって研究に取り組んだ先にイノベーションが訪れるとは限りません。ここは企業として覚悟がいる場面ではありますが、業務の一部については「研究者の好きに任せる」という姿勢が必要です。研究開発本部長の立場として、好きに研究ができる環境をいかに整えるかが使命だと考えています。それと、研究者が一人でコツコツ研究を続けるのではなく、複数の研究者が連携してテーマに臨むことも大切です。場合によっては、異分野の研究者との交流もイノベーションの創出に必要な要素でしょう。
とはいえ、事業戦略とまるで異なる研究を追い求めても企業としては意味がありません。そこで技術開発をいくつかの領域に分けています。その中には既存事業に近い領域や既存事業を広くとらえた領域などがあります。上がってきた研究テーマについては、一定の判断基準のもとで事業化検討するか判断することがありますし、テーマによっては事業部と連携して開発を進めるという判断を下します。また、長期的な視点のもとでじっくり取り組むテーマもあります。

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村岡

研究開発では、シーズが多数ある中で事業化に向けた判断が課題です。テーマとして格上げすべきか、継続すべきか、断念すべきか、より専門的な観点からの判断が必要となっています。その点、研究者が事業化に向けてすべて検討するのではなく、社外取締役、さらには外部の専門機関の助言なども得ながら取り組んでいます。
イノベーションの最近の成功例としては、2024年秋に上市を予定しているオールシーズンタイヤの「アクティブトレッド」を挙げることができます。これはタイヤの常識を根本から変える可能性があるという点で、まさに想定外というべきイノベーションの成果です。

上坂

今だから話せることですが、2016年当時、「アクティブトレッド」のコンセプトが研究員から上がってきた際、社内では誰もが「発想は面白いが、実現は不可能」と考えていました。実は私が最終責任者だったのですが、社内では理解者がほとんどいなくて、完全アウェイの状態でした。しかも、6年間ぐらいは実現の見通しが立たず、針のむしろの時期が続きました。「絶対にやり遂げよう」と叱咤激励してくれた上司の存在が希望の光でした。そうでなかったら、おそらく断念していたテーマだったかもしれません。技術の原理原則を大切にする当社ならではの研究開発を通じて、物理現象を徹底して解明し、追求し続けた成果です。

田中

「アクティブトレッド」が普及していくに従って、私は自動車タイヤのゲームチェンジが起こると予測しています。この「アクティブトレッド」を搭載したタイヤが2024年の秋に発売されます。テストコースで実際に体験された方々からは「ぜひマイカーに装着したい」という声を多数いただいています。発売前にここまで反響の大きな新製品は私の経験上初めてのことです。
この経験を経て、イノベーションのあり方について改めて考える機会を得ました。革新的なアイデアを考案することの大切さはもちろんのこと、それとともにアイデアを具現化する実行力が欠かせないということです。これらを一人の人間がすべて網羅するのは現実的ではなく、アイデアを出す人、それを受けて具現化する人といった組織づくりが今後重要なのだと考えます。

高いハードルに挑戦する人材を育てていく

田中

こんなことを言うと手前味噌ではありますが、私たちは研究開発に対してもっと自信を持って挑戦すべきでしょう。過去を振り返ると、当社は早くから石油外資源材料を用いた製品の開発などに取り組んできました。時代が早過ぎて事業化で失敗したものもあるとはいえ、サステナビリティの先駆けとも言える100%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ」など、新しい価値の創出に向けて挑戦の歴史が綿々と続いてきたのは事実です。先輩方の功績に学んで、挑戦する気概を持った人材を一人でも多く育てることが使命だと思っています。

村岡

先進技術の創出は必須であるものの、研究者の独りよがりでは良い製品を世の中にお届けすることができません。「アクティブトレッド」はお客様に良いモノとして伝わる技術であると感じており、このように、技術をお客様の目線でいかに価値あるものに仕上げるか、これは研究開発に携わる者全員が共有すべき価値観です。
私たちは、社会のトレンドを踏まえた研究開発に今後もっと注力していきます。例えば、サステナビリティへの対応や非化石燃料の活用など、これからの時代が必要とすることを、他社に先駆けて実現することが私たちの使命です。この信念を持って、我々は先を見据えて動き続けます。

上坂

入社以来、研究開発を見続けてきて、社会の要請に応える仕事を応援する幹部の存在が大きかったと思います。100%石油外天然資源タイヤの開発にしても、若手の研究員が「いずれは石油が枯渇するのだから、それを見据えたタイヤをつくりたい」という壮大な夢から出発しています。それに対して、「よっしゃ、やってみよ!」とおよそ10年間にわたって励まし続けた上司がいました。
きれいごとと言われるかもしれませんが、当社には夢を応援する企業風土が継承されています。私自身、これまでの経験を振り返って、やりたいことに挑戦しているときは楽しくて仕方がなかったものです。逆にやりたくないことを指示された時は苦痛でした。誤解を恐れずに申し上げるならば、研究開発のすべてが事業につながらなくてもよいのではないかというのが私の考えです。そうした発想が定着している組織だからこそ、研究員のやる気を高めることにつながりますし、常識を超越したイノベーションの創出を可能にするのだと思います。そして、常に前を見て歩み続ける中で、どこよりも進んだ技術を確立していく。これが肝心です。そのためには、研究開発に従事する人々を励ましつつ、一人ひとりの仕事を適正に評価する企業でありたいと思っています。

田中

仕事に対する適正な評価とともに、取り組みたいテーマについて研究員一人ひとりと意思疎通を密にしつつ、本人の資質や希望に沿ったものを提供していくことも重要と考えます。また、コロナ禍の数年間は社外に出向く機会が制限されていました。今後は研究員が社外の研究機関や学会などに積極的に出向くことを奨励します。これによって外部の知見を得て、刺激も受けて、イノベーションの創出につながる仕事に挑戦してほしいと思います。

上坂

人材育成のポイントは自己実現を目指せる組織であるかどうかにかかっています。会社という組織である以上、何でも自由にできるというわけにはいきません。しかし、人のやる気は究極のところ、できる限りやりたいことに挑戦させることで生み出されます。それによって人は自然と育つものです。一方では各自がやりたいことに取り組ませる。他方で事業に貢献する研究成果を引き出す。現実問題としてこの両立は簡単ではないものの、普段から一人ひとりとのコミュニケーションを大切にしていく中で、課題はクリアできると信じています。
私としては、高いハードルに挑戦する人を一人でも多く育てていきたいです。高いハードルに挑むには失敗がつきものです。この点はたとえ失敗に終わったとして、挑戦する人を応援し、評価する会社組織でなければならないと思います。今後、第二、第三の「アクティブトレッド」の開発に向けて、研究開発本部長として働く人の気持ちを高める施策を打ち出していきます。

村岡

ものづくりを統括する部門のメンバーには、仕事のあり方を抜本的に変えて下さいとお願いしています。マネジャークラスにお願いしている「3・3・3・1」があります。仕事全体の3割は業務推進、3割は業務改革、3割は部下の育成、そして残り1割は自己研鑽という業務構成です。業務改革では、DXの推進によって、過去において業務の習得に10年かかったものを、部下にも同じように10年かけさせるのではなく、半分の5年以下で習得できる仕組みにしていきたいと思います。この業務改革のプロセスを通し、マネジャーの方々が部下の育成により注力できる組織としていきます。人はそれぞれ能力や個性、価値観が異なります。これらを踏まえて、一人ひとりが存在価値を発揮できる居場所を用意すれば、人は自立して育っていくものです。今後、ものづくりを統括する部門内では働きがいのある職場を目指していくことで、人材基盤の強化を図り、事業の発展に寄与する新たな価値の創出を追求していきたいと思います。