社外取締役鼎談

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社外取締役から見る住友ゴムグループのチャレンジ

社外取締役

谷所 敬

社外取締役

高坂 敬三

社外取締役

札場 操

実行力を発揮した中期計画の1年目

高坂

2023年からスタートした中期計画の一年目が終わりました。新中期計画では2025年を一つの区切りに設定し、構造改革(既存事業の選択と集中)に取り組んでいます。それまで長く続いた旧路線を見直していく意味で、非常に役立ったと私は思っています。大げさに言いますと過去との決別ですね。三極体制の解消、役員体制の変革もそのひとつです。これまで私たち社外役員は懸案となっている北米問題などを指摘してきましたが、今回社内一丸となって課題解決に向けて構造改革に取り組む姿勢が明確になりました。これがひとつのターニングポイントになったと思います。山本社長が強くメッセージを発信され、それが社員全員の意識改革につながっていると思います。

谷所

2023年の構造改革ではガス管事業と欧州医療用ゴム製品事業の2事業の撤退を決めました。事業の選択と集中にあたり、全社的に規模より収益性を重視していこうと決め、指標も共通化したのは良かったと思います。2025年までに基盤づくりをするという点で、順調なスピード感だと思います。2024年と2025年は限られた時間の中でさらに基盤を強固にしていくことが課題でしょう。

札場

私は昨年、社外取締役に就任し、この一年、山本社長が経営基盤強化活動の「Be The Change」プロジェクトに大きな力を注がれているのを目の当たりにしました。強い意志を持って過去を整理され、社員の意識改革を実行されています。昨年の「Be The Change」の報告会に出席して、役職や年次を問わず、様々な部署のメンバーが変革への想いや実例を紹介されており、会社一丸となって取り組まれていることを実感しました。

高坂

事業の選択と集中に関しては、現場と交流があった私としては、本当にその事業をやめていいのかと思うこともありました。しかし、皆さんがマトリックスをつくり、情に流されることなく数字を見極めて厳しい経営判断をされています。社内と社外の人間の見方の違いを認識した事案でもありました。

札場

事業の選択と集中では、既に議論された後に入った私としては、正直なところ、数字に大差はないのにどのように選択を割り切ったのだろうと思うところはあります。売価やお客様の数で将来の予測は大きく変わりますから。しかし、ROIC経営のような物差しと「Be The Change」のような取り組みの両輪で意識改革しながら、もっと大胆に自由にやっていこうという時を経て、今があるのだと理解しています。
一方で課題はたくさんあると感じます。事業は優先順位づけして進めていきますから、どうしても先送りになる事案が出てきます。社内にいる人たちは以前よりスピード感があると思っているかもしれませんが、外から見ると少し遅いと感じる時もあります。バッドニュースやあまり耳に入れたくない事柄をどんどん上げていこうという空気にはなっていますが、事象が報告として上がってくるまでに時間がかかるケースもある。ある役職以上の人たちにとっては、問題と同時に解決策を提示しなければならないので仕方ないことなのですが、もう少し早く上がっていれば、経営会議や取締役会で議論の余地があったのにと思うこともあります。

谷所

たしかにスピード感は重要ですね。その一方で、センシングコアやアクティブトレッドなどの新しい事業は長い目で育てていくことも必要です。どのような製造業でも製品の開発から市場に出るまでに時間がかかるものです。そこからさらに改良を重ね、提供範囲を広げ、収益性の高い事業に育つまでに相当な時間がかかることを覚悟しておかなければなりません。

札場

組織面では、今年1月にタイヤ事業本部が発足しました。当社は売上収益の約85%がタイヤ事業ですが、この大きな事業を俯瞰して見る組織がこれまでなかったことが意外でした。長い期間の中で急激に海外展開をするなど、組織に横串を通すのが難しい事情があったのかもしれません。とはいえ、会社始まって以来、初めてそういう組織ができたことに期待したいと思います。
人的資本の強化については、今いる人たちの適材適所の配置が大事です。教育研修制度は進んでいると思いますが、一番やってほしいのは、皆が少しずつおせっかいになることですね。隣の事業部が困っていたらちょっと手を貸す。機械や装置ももちろん大事ですが、結局事業をやるのは人です。煩わしいかもしれませんが、少しだけおせっかいになることが組織体質の改善にも通じるのではないかと思います。

自由な雰囲気と多様性ある取締役会

札場

先日、社外取締役として初回の株主総会に出席しました。私の経験から、株主総会のあとの取締役会は型通りのことをやるのだろうという思いがありましたが、当社は株主総会の直後でも重要な事案を討議します。その日選任された新任の社外取締役の方までも、すぐに活発に意見交換をされていました。真剣に経営に取り組んでいる印象がさらに強まりました。

谷所

当社では、社外取締役の高坂さんが取締役会の議長を務めていらっしゃいます。取締役会は議長のやり方に雰囲気を引っ張られやすいのですが、高坂さんは執行側の山本社長を応援する気持ちでやっておられるのがよく伝わってきます。その雰囲気の良さもあるでしょうが、自由に活発に議論できているというのが当社の取締役会の印象です。

高坂

私の考えでは、社外役員というのは基本的に社長の応援団です。執行部の判断に対し、「それで大丈夫か」と問いかけはするが、納得できれば、“社長頑張れと応援する”のが役割だと思っています。さらに言えば、社外役員の皆さんはこの会社が好きだから社外役員をやっているというのがいいですね。当然厳しいことも言いますが、その根底にはこの会社が好きだという気持ちがあります。当社の社外役員はある時期から非常にまとまりがよくなりました。情報交換はその都度やっていますし、取締役会以外の場での交流も盛んです。女性や外国籍の役員もいらっしゃいますが、それぞれの専門性から発言され、多様性に富んでいると思います。
私は当社の社外取締役になって15年ですが、社長の人柄によって自ずから社風は変わるものだと感じています。過去には、重要な議案はすでに取締役会前の経営会議等で議論をしつくして、取締役会では担当役員が説明するだけで社長が発言されることはあまりなかった時代もありましたが、今は自らしっかりご意見をおっしゃるので、社長のお考えが非常にわかりやすくなりました。

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札場

社外役員への情報提供という点では、当社の場合、監査役会の場に業務執行している人を呼び、そこに社外取締役も入って案件を聴く機会があります。事前に多勢で議論する場があることは理解の助けになります。また、私は指名・報酬委員会のメンバーですが、普段あまり話をする機会のない執行役員の人たちと顔を合わせ、お互いを知る機会になっていることも、判断材料としてプラスでしょう。その結果、社外取締役と社外監査役の交流がない会社に比べると、意思統一が図れていると感じます。

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革新性あるサステナブルな取り組みの数々

札場

サステナブルな取り組みについても触れたいと思います。先にも言いましたが、当社はタイヤ事業が売上収益の約85%を占めており、研究開発に関わる人もたくさんいます。一方で純粋な「新事業」に関わっている人は多くありません。今後はそこを育てなければならないでしょう。
また、数量主義、売上拡大から脱却する方針でやってきましたが、2023年度は売上が1兆円を超えました。それはそれとして、今後も引き続きお客様に良い商品を、さらにはサステナブルなものを世の中に提供していく姿勢は変えないでほしいと思います。たとえば今秋発売予定のオールシーズンタイヤのアクティブトレッドは、大変優れた技術ですが、別な見方をすると夏と冬にタイヤを履き替えずに済むということで、売上が減る可能性もあるかもしれません。しかし、良い商品の提供、サステナビリティの観点からさらに開発は続けてほしいと思います。センシングコアもそうですね。

谷所

タイヤ事業のいちばんの課題は材料開発でしょう。これからの時代、イノベーションを自社だけでやるのは難しい。現在当社でもスーパーコンピューターなど日本でも最先端の外部設備を使いゴムの成分を解析していますが、今後はさらに外部機関をうまく使って研究開発するべきだと思います。
その一方で、いつまでも材料開発ばかりをやっているわけにはいきません。これからの課題は人手不足にあります。女性やシニアの方々もどんどん活用しないといけませんが、24時間操業の工場で、そのような方々にどう働いてもらうのか。外部の知見や最先端のツールを使って、全自動運転、全自動生産の研究開発も進めなければなりません。

札場

先日の株主総会の事前質問では、樹脂製タイヤに関するご質問が出ていましたが、これも一朝一夕にできるとは思いません。ただ、当社の場合はビッグデータを活用した循環型のビジネスモデルであるTOWANOWA構想を打ち出しています。このような長期的な目標を社内外に宣言しているのは、方向性が明確になってよいと思います。

谷所

サーキュラーエコノミーについては、昨年白河工場で、水素エネルギーと太陽光発電の活用により、日本で初めて製造時カーボンニュートラルを達成したタイヤを発売しました。外部機関から技術サポートと補助金を得て、最適な時期に水素を利用し始めたのは先進事例でしょう。コスト的には厳しいかもしれませんが、このような先進事例に取り組むところが当社の“革新性”だと感じています。

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“住友ゴム愛”を持って応援する役割

谷所

最後に、当社における社外取締役としての自身の役割について、お話したいと思います。
当社は現在ERPの導入を行っています。私は技術者として、システムを現場に導入する時の難しさをよく知っています。システム投資においては、完成後の運用費用は見込んでいても改善費用は見込んでいないことがあるものです。使い始めた時にどんな不具合が出るかわかりません。運用時を見据えて投資効果を見誤らないよう助言していきたいと思います。
もうひとつ、センシングコアという車に搭載するソフトウエアを開発していますが、販売だけではなく月額の利用料をいただくサブスクリプションという方法もあります。そのような方法に詳しい人材がまだ社内には少ないようなので、自身の経験を活かして事業構築についてもアドバイスしていきたいですね。

札場

経営会議にはいろいろな案件が上がってきますが、それをモニタリングする力が少し弱い気がします。そのため私たちが少し離れたところから、「3か月前に言っておられたあの案件はその後どうなっていますか?」と聞いてみることが大事でしょう。私自身が社長をしていた時には進捗の遅れが気になることが時折ありましたので、その点はアドバイスができると思っています。

高坂

私はおふたりのように経営の経験はなく、ゴムやタイヤのことにも詳しくありませんが、弁護士としての経験から人を見ることだけはできるのが取柄だと思っています。歴代の社長や役員とお付き合いして、その人の性格や資質を見定め必要なアドバイスをしてきました。いわば社内役員と社外役員の接着剤のようなものですね。
社長の応援団である社外役員の取りまとめ役として、社長が躊躇している案件があれば、かけ声を持って背中を押す立場にあると思っています。技術や事業開発に詳しい谷所氏、ガバナンスや経営に詳しい札場氏、さらに、専門性に富んだ社外の役員。私はこれらのハーモニーを“住友ゴム愛”でまとめる役割を担い、厳しくも温かく支援していきたいと思っています。

新任社外取締役 ごあいさつ

社外取締役
本島 なおみ

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企業経営を取り巻く課題は、気候変動、格差拡大による社会の活力低下、技術革新とそれに伴うリスクの増大、インフレ、少子高齢化、財政再建等の構造的課題も加わり、年々深刻さを増しているほか、地政学リスクも高まっています。社会課題が多様化し、想定外の事象が起こる不透明な時代にあって、私たちは迅速かつ的確に環境変化に対応していかなければなりません。
そこで企業経営の軸となり、基盤となるのが、「サステナビリティ」です。
私はこれまで、MS&ADホールディングスやそのグループ会社において、サステナビリティやDE&IなどのESGに関する分野を中心に携わってきました。これまでの経験を踏まえ、企業がサステナビリティ経営を実行するためには、以下の3つの要素が必要不可欠と考えています。
まず、社員一人ひとりの日々の仕事が社会課題とどのようにつながっているのか、わかりやすく示し、社員の働きがいにつなげることです。これが全ての土台であり、ミッション・ビジョン・バリューの浸透と表裏一体を成すものと考えています。
次に、第一線社員が無理なくお客さまの課題を把握してソリューションを提供できるよう、本社が連携して第一線を支援する体制を整えること。
最後に海外各拠点の事業環境を踏まえ、緊密にコミュニケーションを取りながら、国内外一体の取り組みとすることです。
住友ゴムが今後も持続的に企業価値を高めていく過程においても、これらの要素が不可欠であると確信しています。業務執行とは異なる社会からの視点で住友ゴムのサステナビリティ経営を見つめ、私自身も貢献してまいります。