※このページは、「統合報告書2026」に掲載した内容です。
成長フェーズにおけるガバナンスの実効性と社外取締役の主体的な関与
(2025年新任社外取締役)
(指名・報酬委員会委員長)
(取締役会議長)
当社は、構造改革を経て成長フェーズへと移行し、取締役会では多様な視点による議論を通じて、ガバナンスの実効性を高めてきました。成長戦略の推進やグローバル競争力の強化など、課題が広がる中、重要となるのは実質的なガバナンスによる意思決定の質の向上です。本鼎談では、社外取締役の視点から、取締役会のあり方や成長戦略、今後の企業価値向上に向けた課題について議論しました。(敬称略)
其田
当然ながら、國安社長の選任は一朝一夕に決まったものではありません。指名・報酬委員会にて、山本会長をはじめとする経営陣全体のサクセッションプランを長期的な視点で検討しており、どのような体制で将来の経営を担っていくのかを常に念頭に置いて議論を重ねてきました。
決定に至る過程では、執行部に対しても人材育成の重要性を継続的に求めるとともに、委員会のメンバー自身も各人のスキルや適性を丁寧に見極めることを心がけてきました。取締役会での議論にとどまらず、日常のさまざまな会議における発言や行動も含めて注視しながら、総合的に判断してきたものと認識しています。
札場
國安社長については、執行役員、取締役となられた頃から私もその歩みを拝見してきました。複数の候補者の一人ではありましたが、継続的に見てきた中で、技術畑を中心にキャリアを重ねてこられた後、品質保証、経営企画をはじめとする幅広い経験を積まれてきた経緯も含め、その成長を実感してきました。
最終的な選任は指名・報酬委員会として判断したものですが、その前提として、執行部において計画的に人材育成が行われてきたことも事実です。その上で、委員会のメンバーが多面的に評価し、國安社長を選任しました。今後は前任者に気兼ねすることなく、社長としてさらに力を発揮していただくことを期待しています。
上田
前社長の山本会長は、大胆な構造改革を通じて深刻な課題に着実に対応するとともに、新製品・新技術の投入やブランド戦略の推進により、その成果を具体化し、企業の進む方向を明確に示されました。その改革プロセスを最前線で支えてこられたのが國安社長であり、この一年間ご一緒する中でその資質を拝見してきました。その方が後任として新たな成長段階を担われることは極めて適切と考えています。
其田
当社では、社外役員と執行役員との懇談会を設けています。これは取締役会とは別に、各執行役員が自らの課題やテーマについて説明する場であり、継続的に実施されています。こうした機会を通じて、社長後継者候補をはじめ、その次の世代を担うリーダー層とも直接対話することができており、意思疎通を図るとともに、それぞれの資質や適性について評価を重ねてきたことが今回のサクセッションにつながっています。
札場
私が取締役会議長を務めていることもあり、この一年間、國安社長から取締役会の議案について毎回ご説明を受け、1対1での議論を重ねる中で人物像への理解を深めてきました。トップに求められるのは、困難な局面でも逃げず、誠実に向き合う姿勢と考えますが、國安社長は長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」やDUNLOPブランド取得などの重要案件において責任を持って対応し、良い点だけでなく課題についても率直に説明されてきました。そうした姿勢は非常に信頼できます。
今後は、山本会長との役割分担を明確にしつつ、意思決定の司令塔が一つであることを社内外に示していく必要があります。
上田
今後の経営戦略は、「R.I.S.E. 2035」に示されている通りであり、その着実な実行が前提になります。事業環境の変化を的確に捉えながら、持続的な企業価値向上に向けた方向性を示し、組織を率いていくことが求められます。
加えて、リスクを適切に見極め、説明責任を果たしつつ迅速に意思決定を行うこと、次世代の経営人材を育成すること、健全で開かれた企業文化を継続的に醸成していくことも重要な役割と考えています。山本会長が築いてこられたステークホルダーとの信頼関係をさらに発展させ、多様な意見を取り入れ、独善に陥らない意思決定プロセスを確保するとともに、対話を重視した経営を進めていただきたいと思います。
其田
これまで構造改革に取り組んできましたが、主要な課題については概ね整理され、一定の道筋が見えてきた段階にあると認識しています。また、山本会長が市場との対話を重視し、IRの充実や積極的な情報発信を進めてこられたことは、当社にとって重要な基盤となっています。この点についても引き続き強化していくことを期待しています。
札場
私が議長に就任して以降、取締役会に時間を要する傾向にあるものの、それは議案の多さに加えて、各取締役が多様な視点から積極的に意見を述べ、議論が非常に活発に行われていることの表れだとプラスに受け止めています。特に社外取締役は、それぞれの専門性に基づき多角的な質問や助言を行っております。取締役会全体として議論の質が年々高まっている点は評価しています。こうした変化の背景には、リーダーシップの影響が大きいです。山本会長の社長時代において多様な意見に耳を傾ける姿勢が浸透し、取締役会の議論のあり方にも良い変化が生まれていると感じます。
其田
議論という観点では、当社には評価できる点が大きく二つあると考えています。一つは、役員懇談会を通じて現場に近い情報やデータに直接触れることができる点です。もう一つは、ここ数年導入されているオフサイトミーティングで、取締役会に先立ち、論点整理や中間報告、意見交換を行う機会が設けられていることです。これらの取り組みにより、取締役会での議論の質が高まっていると感じています。加えて、取締役会では社内役員が自らの担当領域にとどまらず、ほかの領域についても積極的に意見を述べており、自由闊達な議論が行われています。札場議長のリーダーシップのもと、限られた時間の中で率直に忌憚のない意見が交わされている点も、当社の特徴の一つと感じています。
上田
こうした雰囲気は一朝一夕で生まれるものではなく、これまでの積み重ねの中で、健全な組織文化として定着しつつあるものと認識しています。良き文化は社内にも波及し、自由闊達な議論を通じて本質的な課題が浮かび上がるという認識が、取締役会にとどまらず組織全体へと広がっていくことが期待できると考えています。
札場
取締役会においてはこれまで定着してきた率直で自由闊達な議論の雰囲気を維持していくことが重要です。一方で、何を議論すべきか、という点については、改善の余地があると認識しています。特に「R.I.S.E. 2035」や新社長の経営方針の進捗を適切に捉えるためには、どのような論点を継続的に確認していくのか明確にし、取締役会に加えてオフサイトミーティングなども活用しながら、議論の枠組みを整理していく必要があります。
また、経営のスピードを高めていく観点では、取締役会に付議される前段階における執行側の意思決定のあり方も重要です。どの会議体で、誰がどこまで意思決定を担うのかといった権限やプロセスをあらためて整理し、迅速な意思決定を可能とする体制の構築が求められます。構造改革は一定の成果を上げてきたものの、なお難易度の高い課題が残されています。これらに対しては、執行部と取締役会が適切に役割分担しながら議論を重ね、着実に解決していくことが重要です。
其田
今後の取締役会を考える上で、スピード感は非常に重要な要素と認識しています。意思決定には一定の情報や背景説明が不可欠であり、資料の充実も重要ですが、その作成に過度な負担が生じている側面もあります。DXの取り組みも進めている中で、業務効率化を一層進めていくことが望まれます。取締役会運営にとどまらず、それを支える執行部の業務のあり方としても重要な課題です。
上田
今後の社外取締役の役割については、株主共同の利益を代表し、資本市場の視点を経営に伝えることが基本であると考えます。一方で、企業の内部を見ていくと、経営陣からは見えにくい課題が存在している場合も少なくありません。企業不祥事の多くは、こうした見えにくい問題に起因している場合があると認識しています。そのため、従業員や現場の視点にも目を配りながら、経営陣からは見えにくい、あるいは見過ごされがちな課題を可視化していくことも、社外取締役の重要な役割です。言い換えれば、意思決定の背後に潜む企業風土に起因するリスクに着目することが求められます。リスクは場合によっては経営を揺るがしかねないものであり、顕在化する前に、距離を置いた視点から浮かび上がらせていくことが我々の責務です。
札場
企業経営の経験からグローバル展開の重要性は認識していたものの、DUNLOP商標権等の取得については、これほどの投資を行う意義を十分に把握しきれていない面がありました。しかし、議論や検討を重ねる中で、その歴史や価値、そして将来の成長戦略における位置付けについて理解が深まりました。現在では中期・長期の経営戦略における重要な柱の一つであると認識しています。
こうした投資は、将来の成長に関する前提や数値計画と一体となって成り立つものです。計画通りに着実に進捗しているか、継続的なモニタリングが重要であり、執行側だけでなく、我々取締役会としても果たすべき役割と考えています。また、当社にとってDUNLOPブランドは、かつて保有していたものを取り戻したという経緯があり、いわば再挑戦でもあります。その意味でも、この取り組みは必ず成果につなげていかなければならない重要なテーマです。
其田
DUNLOPブランドを取り戻すことは当社にとって長年の悲願であり、これを実現できたことは大きな転機であると認識しています。今後はいよいよ成長に向けた重要な局面に入りますが、その前提として、投資に見合う成果を着実に創出していくことが求められます。特に重要なのは、欧米市場における失地回復とブランドの復権です。その実現に向けては、当社の技術を活かした製品の提供と、マーケティング・販売の強化を両輪として進めていく必要があると考えています。
一方で、リスクへの対応も重要です。海外での生産・販売に伴うさまざまなリスクが想定される中で、想定外の事態にも対応できるよう、強固な基盤、とりわけ財務基盤を構築しておくことが不可欠です。また、供給面の確保も重要な論点です。生産拠点の稼働状況や人材不足といった課題を踏まえ、成長に見合った供給力をグローバルに確保していく視点が求められます。
さらに、DUNLOP商標権等の取得は、事業面にとどまらず、企業価値の向上にも寄与するものです。ブランドの認知度の高さは、採用や従業員のモチベーションにも好影響をもたらすものであり、今後の成長を支える重要な基盤となることが期待されます。
上田
DUNLOPブランドを活用していくことは、大きな成長機会につながると考えます。タイヤ事業を中核としつつ、スポーツ事業や産業品事業も含めてブランド価値を統合的に高めていくことで、企業全体の信頼性を一層強化し、差別化を進めるとともに、顧客との長期的な関係性を通じて顧客価値の向上にも寄与していくはずです。
また、ブランド価値の向上は、人材の獲得や外部との連携、新規事業の創出においても重要な基盤となり、中長期的な成長の好循環を生み出すものです。さらに、ブランドは外部への発信にとどまらず、従業員一人ひとりの行動を通じて体現されるものです。従って、ブランド戦略と企業文化の整合を図り、従業員がブランドの担い手として自律的に行動できる環境を整えていくことが、ブランド価値向上の鍵になると考えています。
一方で、社会環境の変化に伴う不確実性も踏まえ、短期的な変動に左右されることなく、一貫した方針のもとでブランド戦略を推進していく視点も重要と認識しています。
其田
人材の観点では、新しいことに挑戦する気概、多様な価値観を受け入れる柔軟な感性、そしてコミュニケーション力の三つが重要と考えています。グローバルで事業を展開していく中では、市場ごとに価値観やニーズが異なるため、こうした力が不可欠になります。
一方で、個々の従業員のスキルを組織力としてどのように発揮していくかは別の課題であり、これを実現するためには経営陣のリーダーシップが重要と認識しています。このような要素を基盤としながら、環境変化に応じて柔軟に判断し、必要に応じて方針を見直していくことも求められます。リスクは予期せぬ形で顕在化することも多く、状況に応じて迅速に対応できる組織であることが、グローバルで競争していく上で不可欠と考えています。
札場
グローバル企業としては、其田取締役が指摘された点に加え、海外拠点における不祥事や情報伝達の遅れといったリスクにも十分に留意する必要があります。現場に限らずマネジメント層においても課題が生じ得ることや、いわゆるBad Newsが適時に共有されるのかといった点は重要な経営課題です。こうした課題に対応するためにはグローバル人材の育成が大切ですが、それに加えて、トップ自らが海外拠点の責任者と直接対話を重ね、関係性を深めていくことが不可欠であると考えます。国内外の拠点を問わず、経営トップとの密度の高いコミュニケーションを通じて、組織としての一体感を高めていくことが重要です。
これまでも山本会長が社長時代に国内外の拠点に足を運び、営業や生産の現場で直接対話を重ねてきたことは、組織理解を深める上で大きな意義があったと感じます。取り組みは容易ではありませんが、現場との距離を縮める上で重要な役割を果たしていると認識しています。また、社外取締役に対しても現場を理解する機会が提供されており、経営と現場とのつながりを実感できる点も当社の特徴の一つです。これらの積み重ねを通じて、各拠点がグローバル全体の視点を共有しながら意思決定を行う体制の構築が求められていると認識しています。
上田
人材は管理すべきコストではなく、企業価値を創造する戦略的な資本です。従業員のエンゲージメントを高め、多様な学びや挑戦を促す企業文化を醸成していくことが重要です。組織風土は重要な経営基盤である一方、そのあり方によっては、建設的なコミュニケーションを阻害する要因となり得る点にも留意が必要です。例えば、過度に業績を重視する風土は、不適切な行動を誘発し、事実に基づいた建設的なコミュニケーションを阻害する可能性があります。その点で、当社の「企業行動基準」で掲げる「Bad News First/Fast」という考え方は重要な意義を持つものです。課題や問題を早期に共有し、組織として学びに変えていくことは、透明性の向上に資するとともに、従業員にとって心理的に安心して意見を発信できる環境の構築にもつながります。
其田
これまで構築してきたガバナンスの仕組みを着実に継続することが前提であり、リスクの早期検知の精度を高めていくことが重要と考えています。「Bad News First/Fast」の考え方にも通じますが、問題の兆候をいち早く捉える感度の向上が求められます。併せて、意思決定においては多様な視点を十分に取り入れ、それらを踏まえた検討を深めていくことも重要です。こうした点を通じて、ガバナンスのさらなる実効性向上を目指したいです。
札場
新たな体制として、國安社長をはじめ社内取締役や執行役員の顔ぶれが整い、今後、このメンバーでどのような仕組みや運営体制を築いていくのかを十分に議論し、進めていくことが重要です。また、長期的に持続的な経営を実現していくためには、次の経営陣やその先の体制も常に意識しながら、人材を育成していく視点が欠かせません。経営の意思決定は数年で完結するものではなく、10年先を見据えて進めるべきテーマも少なくないからです。そうした意味でも、次につながる人材を着実に育てていくことが、当社の中長期的な成長を支える基盤になると考えています。
当社には、住友事業精神が現場まで浸透しており、長期目線での前向きな活動が根づいています。こうした文化が人を育て、次のリーダーへとつながる土壌があると感じます。DUNLOPブランドの成果創出や海外生産拠点の強化など、個別に取り組むべき課題は数多くありますが、並行して、人と組織を長い目で育てていく姿勢を大切にすることが、持続的な成長のための基盤になるのではないでしょうか。
上田
ガバナンスという言葉は近年広く浸透しており、その重要性は言うまでもありませんが、一方で制度面の整備や形式的な遵守にとどまり、形骸化の懸念も感じています。本来、ガバナンスは固定的な到達点ではなく、法令や社会規範、事業環境の変化に応じて自ら更新し続けていくプロセスであると考えます。
そのため、表面的な形式にとらわれるのではなく、自社の事業特性や成長段階に応じて必要な仕組みを自律的に設計し、実効性を高めていくことが重要です。例えば、資本効率の向上は重要なテーマですが、株主還元を過度に重視することで人材投資や研究開発投資を抑制してしまえば、中長期的な成長機会を損なう可能性もあります。
こうした観点から、必要に応じて合理的な説明を行いながら、自律的かつ継続的にガバナンスの高度化に取り組んでいくことが、本質的な意味でのガバナンスであると考えます。社外取締役としては、形式的な遵守を強調するのではなく、実質的な取り組みを対外的に発信していくことが重要と認識しています。
其田
当社は技術力の面で大きな強みを有しており、近年ではオールシーズンタイヤ「SYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)」搭載の新技術アクティブトレッドをはじめ、解析技術を活かしたセンシング技術や、長年培ってきたデジタルシミュレーション技術、制振技術など、対外的にも誇ることのできる技術を数多く有しています。こうした強みをいよいよ成長につなげていく局面に入ったと認識しており、「R.I.S.E. 2035」に掲げる各種目標の実現に向けて、全社一丸となって取り組んでいくことが重要と考えています。社外取締役としては、外部の視点から、適切なガバナンスを維持しつつ、技術の強みを成長や企業価値の向上につなげる挑戦を後押ししていきたいと思います。
札場
設計や技術開発の分野で経験を積まれてきた國安社長が就任されたことは、当社の強みを一層発揮していく上で大きな意義があります。今後は投資家との対話の場においても、当社の技術力や将来に向けたビジョンを自らの言葉で発信していくことが期待されます。また、現場をよく理解している経営トップの存在は、従業員にとっても大きな励みになると考えています。加えて、海外拠点との直接的な対話を重ねることで、自らの考えを共有しながらグローバルでの一体感を高めていくことも重要です。
一方で、営業や海外事業などについては、社内に多様な専門性を有する人材が揃っています。そうした人材の力を十分に活用しながら、社長として果たすべき役割に集中し、組織全体を前向きに牽引していくことが求められます。そのような取り組みを通じて、執行部全体の力を引き出し、より良い経営につなげていきたいと思います。
上田
これまで改革を主導してこられた山本会長と、それを支えつつ技術分野での経験を有する國安社長という体制は、改革から成長へと軸足を移していく局面において、非常に適切なタイミングでの移行であると認識しています。
私自身も社外取締役として、今後はIR活動への関与が一層求められていくと認識しており、積極的に関わっていきたいと考えています。投資家との対話を目的としたIR活動は単に情報を発信する場ではなく、投資家や資本市場からの評価や期待を直接把握する重要な機会でもあります。そうした対話を通じて学びを深めるとともに、当社が挑戦を続け、自律的に考え行動していく企業であることを発信していく場として、積極的に取り組んでいきます。