社外取締役から見る住友ゴムグループの挑戦と飛躍
札場
2024年度は取締役会において大きな決断が行われました。一つは米国タイヤ工場の閉鎖、もう一つはDUNLOPの商標権等の取得です。どちらの案件も選択肢を一つに絞らず意見を交わし、議論の内容、回数、過程、どの視点から見ても十分に検討が尽くされたと感じています。
其田
米国タイヤ工場については閉鎖ありきではなく、さまざまなオプションを検討しており、本社幹部が現地に駐在し、徹底的な改革に取り組んできました。そのプロセスでは生産性の改善、従業員のモチベーションの向上、製造工程のデジタル化、逆に閉鎖した場合どうなるか、などあらゆる観点の議論が行われ、本社と米国タイヤ工場とでオンラインで議論することもありました。こうして現地工場の改善を全力で実践してきたことは、閉鎖にあたって関係者の理解を得る一つの要素になったと思います。
札場
DUNLOPの商標権等の取得は会社としての悲願だったと思います。しかし、本当に取得すべきなのか、丁寧に議論を重ね、先方と条件の折り合いがつかない場合は交渉の席を立ってよいと判断する場面もありました。結果的に、十分なプロセスを経た良いディールになったと思います。
其田
商標権の取得についても「取得ありき」の提案から始まったのではなく、「取得するには」「取得したとして」「取得しない前提のビジネスは」など多角的な議論を行ってきました。取締役会とは別に開催されるオフサイトミーティングを含めて何度も情報共有が行われ、さまざまな試算をもとにベストアンサーを求めて議論してきた結果です。
本島
私は就任して一年が経過する中、大胆な二つの事案が同時進行している様子に緊張感を覚えました。オフサイトミーティングや取締役会当日の事前説明は、個別の説明ではなく全員が顔を合わせる場として、フランクかつ本質的な議論ができていると思います。こうしたプロセスの中で、社外役員から軌道修正を迫るなど忌憚のない意見が出されたこともありました。事前の情報共有により取締役会で中身の濃い議論が可能になり、限られた時間内に適切な意思決定がなされていると感じています。
札場
先ほど述べた重大な案件が進む中、山本社長は住友ゴムグループのことを一番よく考え、一番悩まれていると思います。取締役や執行役員が活発に議論できるように、あえて自分が出席しない会議を設けているのも山本社長のスタイルでしょう。その一方、従業員と接する場面には多くの時間を使って顔を出しています。社内、特に現場の意見をよく聴きながら会社を引っ張っていく山本社長のリーダーシップが表れていますね。
其田
私が初めて山本社長のリーダーシップを感じたのは経営基盤強化活動のBTC(Be the Change)プロジェクト※1ですね。収益の厳しい時期に利益創出のためにあらゆることをやろうと、社長の陣頭指揮の下、ボトムアップで全員が業務プロセスを一から見直すプロジェクトで、大きな成果をあげてきました。今回のような重大な決断を必要とする案件を目の前にした際の社長自身の決断につながったのではないかと思います。
※1 2020年にスタートした社長直轄の変革プロジェクト「Be the Change」プロジェクト。組織体質の改善と利益基盤の強化を図ることが目的。
本島
山本社長は取締役会の重要な局面において、付議事項の背景、趣旨の説明、意気込みや熱意を折に触れて語られます。それは取締役会の論議を支配するものではなく、節度が保たれてとてもいいバランスだと感じています。2024年、サステナビリティに関する社内表彰式に参加させていただき、山本社長が従業員に対して目配り気配りし、従業員を称えている様子を目の当たりにして、こうしたことを通じて社内のコミュニケーションを十分に図られていることを肌で感じました。
其田
取締役会メンバーのダイバーシティが増したことで、議論における視点も多様になりました。従業員の皆さんも従来の考え方とは異なる考え方が取り入れられていると感じていることが伝わってきたことがありました。
本島
取締役会の構成やメンバーに必要なスキルはその会社のステージによって変わるもので、定型はないと思っています。この先の10年、どういう方向に進みたいのかを見据えて、取締役会のあり方を議論していけるといいですね。
札場
2023年から取締役会の議長は社外取締役が務めています。一般的に取締役会では社内取締役がおとなしくなってしまう傾向にあるのですが、前任の議長はそのあたりを上手に采配されていました。議論が止まったり迷走したりしたときには、いつまでに何をどうするのか、冷静な立場で整理して方向性を示されていました。今年から私が議長を務めさせていただきますので、その役割を引き継いでいきたいですね。引き続き、社内外を含めてメンバーの多様性を活かし、賛成意見、反対意見共に各自の考えを言い合える取締役会にしていきます。
其田
社外取締役が議長に就くことで、良い意味での緊張感がある一方で、社外だけではなく、社内の役員も自分の担当ではない部分に発言しやすい空気になり、議論が活性化しました。これは大きな変化でした。また、社外の者が議長となることで、大きな流れをとらえた俯瞰的な総括ができるようにも感じます。
本島
住友ゴムグループの外の客観的な視点から、意思決定を行うために足りないものを明確にしたり、事前説明やオフサイトミーティングの場で論議するべき事項を仕分けたりしています。このような、議長によるリードによって限られた時間内で複数の重要な決議がスムーズにできていると思います。
其田
指名・報酬委員会については、以前に比べて、サクセッションプランを視野に入れた議論が増えました。指名・報酬委員会での決定はいわばファイナルアンサーですが、それまでに執行部と社外役員との懇談会などを通じて、適材適所となるような配置・育成を後押ししていく必要もあります。今後も多様な人材の活用、取締役の有機的構成と連携できるガバナンス体系を目指していきます。
其田
人材不足の問題は日本のすべての企業において待ったなしの状況であり、現場レベルでの対策を確実に実行していけるかどうかが社の命運を分けると言っても過言ではありません。先ほど述べたBTCプロジェクトはあらゆる部門での全員参加のボトムアップ活動であるため、私はこの取り組みを人材不足の解決にも活用できるのではないかと感じています。工場では現場発のそうした取り組みが始まったところです。当社の技術を活かして魅力ある職場をつくり、働く人に選ばれる会社にしていくことが重要な課題でしょう。
本島
サステナビリティの取り組みについては「SYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)」が発売されたことが象徴的だと思います。社会に本当の意味で役立つ商品を生み出す重要性が社内で広く共有されていると感じます。2025年、サステナビリティ・アドバイザリーボード※2が設置され、当社の持続可能なビジネスについて議論する体制も確保されています。
※2 事業とサステナビリティの統合を目指し、2025年1月に社外ステークホルダーと経営層との対話の機会であるサステナビリティ・アドバイザリーボードを設立。不確実性が増す外部環境の中で企業として成長し続けていくため、社外の有識者をお招きし、当社事業におけるサステナビリティの戦略について助言をいただいた。当社からは各事業担当役員が参加し、サステナビリティをどう事業に反映させていくか対話を実施。
札場
2025年は中期経営計画のターニングポイントとなる年であり、2035年を見据えた長期経営戦略「R.I.S.E. 2035」も発表されました。これらの目標達成に向けて、取締役会に求められる役割の一つは進捗管理です。長期経営戦略の策定にあたっては現場の意見も盛り込まれていますが、実行段階ではさまざまな困難が想定され、現場レベルで本当に自分事として実行していけるかどうかを継続的に見ていかなければなりません。また、計画が策定された後も世の中は速いスピードで変わっています。そういう背景もふまえて適切に施策を管理していくことが重要です。米国タイヤ工場の閉鎖とDUNLOPブランドの取得は長期経営戦略の大事な前段部分であり、それらの進捗管理も欠かせません。多様な経歴・スキルに基づく知見を持つ取締役や監査役たちが社内・社外問わず融合して、さらに企業価値向上につながる意思決定をしていく必要があります。
其田
社外取締役として活動するうちに、だんだんインサイドの視点になることがあります。ステークホルダーの利益を念頭に置きながら、常に外から見た視点を持っていなければと思います。当社が大きな転機を迎える中、戦略や方針においての考えが一致していても、方法論やリスクに対する考え方において、多様な視点が有効に働く場面が多いのではないでしょうか。したがって、時に、少数意見かも知れないと感じたとしても、勇気をもって議論していくつもりです。
本島
長期経営戦略で進むべき方向を示すことができましたので、そこから大きく逸脱しないように注視しつつ、執行側がとるべきリスクをとり、成長に向けてチャレンジするマインドとアクションを後押ししたいです。できるだけ役職員との対話を広げ、長期的に持続可能なビジネスを考え抜き、実現するプロセスに伴走します。
現代は政治・経済の不透明感が増し、価値観も多様化していますが、こうした複雑な変化を機会に変える力がなければ、企業の持続的な発展は望めません。
私は大蔵省(現・財務省)で財政・金融政策に携わり、国際機関やJICAでは開発途上国支援を担当、特命全権大使として外交最前線にも従事しました。退官後は弁護士として、特に企業統治に関する法務に取り組んでいます。
この経験と国内外の人脈を活かして住友ゴムの経営に新たな視点を加え、変革に挑む役職員の皆様を支援しつつ企業の成長と価値創造を通じて、株主・投資家の皆様のご期待に応えていく所存です。