タイヤ事業

写真:代表取締役 専務執行役員 西口 豪一写真:代表取締役 専務執行役員 西口 豪一

徹底した構造改革と
価値の創出を通じて、
収益性のさらなる拡大に
挑んでいきます。

代表取締役 専務執行役員
タイヤ事業・オートモーティブシステム事業統括

西口 豪一

構造改革を着実に進めることで事業利益は大幅に改善の見通し

当社のタイヤ事業は、1980年代以降、日系自動車メーカーのアジア諸国への海外進出に追随しながら、グローバル化を進めるとともに成長を成し遂げてきました。その背景から、かつては日本およびアジア圏で利益の大半を上げるという構図でした。それが徐々にほかの地域での利益構成が高まりました。2023年度に至っては、日本とアジア以外の地域で利益のおよそ半分を占めるまでになりました。
日本とアジア以外のどこで利益を上げているのかというと、米国にほかなりません。これまで、米国事業での損失が事業全体に影をおとしていたのに対して、昨今は高付加価値商品の販売が増えて利益がプラスに転じたことで、タイヤ事業の収益改善が顕著となっています。米国工場が構造改革の途上にあるとはいえ、タイから米国に輸出しているSUV用タイヤなどが米国のお客様から圧倒的な支持をいただいて、業績が好調に推移しています。今後、米国工場を含めた生産拠点の構造改革を推し進めていくことで、タイヤ事業の収益性は一層高まるものと考えます。

売上収益

売上収益

事業利益

事業利益率

※ 事業利益=売上収益−(売上原価+販売費及び一般管理費

ちなみに、タイヤ事業の事業利益が悪化した理由ですが、それは事業の拡大に伴い、固定費が増えて、損益分岐点が悪化したことが背景にあります。これまで当社は、グローバル体制の構築を進めてきた中で、全市場に対応するため多種多様なラインナップをそろえてきました。これを支えるため、開発・生産・物流・販売・サービス体制を拡充してきたことで固定費がふくらむ結果となりました。そして、さまざまな非効率が生じた結果、収益性を圧迫していたのです。米国工場の課題については、先送りすることはありません。あらゆる選択肢を検討した上で、2025年までに構造改革をやりきる覚悟であります。

タイヤ
北米で好調なFALKEN「WILDPEAK A/T4W」
タイヤ
欧州市場向け市販用EVタイヤFALKEN「e. ZIEX」

タイヤ事業全体を横断して統括するタイヤ事業本部

中期計画の柱である「事業の選択と集中」では、事業ポートフォリオを最適化し、2026年以降の再成長につなげていきます。タイヤ事業における成長事業・収益事業の投下資本構成比を、2021年の6割から2025年には7割に高めていきます。これによって、成長事業・収益事業へ投資と人材のリソースシフトを実現し、利益基盤を強固なものにしていく計画です。2024年1月には、先を見据えた組織体制の再構築としてタイヤ事業本部を設立しました。これは、グローバル体制の中で複雑化したバリューチェーンを、DXの経営への取り込みを通じて、データに基づき整理し、フラットな組織運営で効率化、最適化を図り、外部環境変化へ迅速かつ柔軟に対応できる基盤構築を目的としています。今になってあえてこの組織を設けた背景には、山本社長が2019年に社長就任したことを契機に、「組織の変革なくして業績の改善なし」という共通認識が生まれたことが挙げられます。すなわち、組織の健康度向上と利益の創出という両輪を回すということです。当時、「Be The Change」プロジェクト(BTC)が立ち上がり、私がプロジェクトのチーフとして改革に取り組みました。そこで浮上したのが、研究開発から生産、販売に至るサプライチェーン間の連携が十分ではないという課題でした。部門ごとには最適化を図っていたものの、全体最適という観点が乏しいまま、課題の共有が進んでいませんでした。そこで、部門間を横断する仕組みをつくり、迅速かつ大局的な意思決定ができる体制を目指したのです。ちなみにタイヤ事業本部はあえて本社横の技術研究センター内に置きました。ここに製造・技術・販売のメンバーを集約し、諸課題に全員が膝を突き合わせて議論できるように努めています。もちろん、私もタイヤ事業本部長として常駐して指揮にあたっています。タイヤ事業本部を立ち上げたのを機に、私が取り組みたいことは次の2点です。

(1)タイヤ事業利益の額と率の低下傾向に歯止めをかけ、反転を確実なものとすること。
(2)中期計画で事業利益底上げ策を立案・実行すること。

そのためにタイヤ事業本部としては、次の4点を推進します。

1.営業部門とものづくり部門が垣根を越えて協業し、製造・販売・技術が一体感を持って事業を推進していきます。
2.部門横断のタスクフォース型で仕事を進め、PDCAのスピードを上げていきます。
3.海外グループ各社としっかりコミュニケーションをとり、グローバルで事業の管理運営を行います。
4.商品企画とマーケティングの強化を図り、独自技術を活かしたヒット商品開発と、グローバルでのマーケティングに注力します。

加えて、タイヤ事業の柱の一つである国内市販用タイヤについて、2024年1月、国内販売会社11社を1社に統合しました。あらゆる面で効率化を図るとともに、ソリューションビジネスに注力し、将来的な収益向上につなげていく考えです。抜本的な組織改革に併せて、2025年に向けてはDXを推進していきます。ERP(統合基幹業務システム)を導入し、世界各拠点の在庫や受注、生産といった情報をリアルタイムで把握できる仕組みを整え、意思決定をより迅速に行うとともに、市場環境の状況に臨機応変に対処できる体制とすることで、収益性の向上を狙っていきます。

「アクティブトレッド」搭載オールシーズンタイヤ、2024年秋に発売

当社では、構造改革を推し進めるとともに、将来を見据えた挑戦を並行して進めています。それが、タイヤ技術の先進コンセプト「スマートタイヤコンセプト」です。将来のモビリティ社会に対応した商品づくりとして、このコンセプト技術の中にある「エアレスタイヤ」、「センシングコア」、「サステナブル材料」、「性能持続技術」、そして「アクティブトレッド」という5つの技術を軸に開発を進めてきました。
近年、中国などアジア各国のタイヤメーカーの台頭が著しいです。これに対して、当社として圧倒的に付加価値の高い差別化商品を創出していかねば、対抗できなくなるという危機感があります。そこで、「スマートタイヤコンセプト」のもと、2030年、さらには2040年の競争環境を見据えたタイヤ技術の開発に注力しています。
2024年秋、当社は「アクティブトレッド」搭載のオールシーズンタイヤを発売します。これはタイヤの概念を大きく変えるといっても過言ではなく、市場においてゲームチェンジャーとなり得る商品になると確信しています。
この新商品は、路面状況の変化に対し、ゴムの性能が能動的にスイッチする特徴を持ちます。簡単に言えば、晴れの日はドライグリップや低燃費に優れ、雨が降るとその水に応答してウエットグリップに特化したタイヤに変化します。さらには、雪が降るとその低温に応答して雪上や氷上のグリップに特化したタイヤへと変化します。つまり、一つのタイヤであるにもかかわらず、路面状況の変化に応答することで複数のタイヤ性能を持つという全く新しい発想から誕生したオールシーズンタイヤです。
欧州では、近年オールシーズンタイヤのシェアがタイヤ全体の約20%を占めるまでに成長しています。ところが、日本ではまだ数%しか普及していないことから、当社で商品化の可能性を模索していました。これに対して、2022年に材料開発陣が社内技術報告において、2018年から進めていたゴム材料技術を発表しました。私は「これこそ、住友ゴムらしい商品ができる」と直感したことから、「すぐに商品化をめざすべき」と社内を喚起してオールシーズンタイヤの開発を加速させたのです。
2023年10月、「JAPANMOBILITYSHOW2023」に「アクティブトレッド」のタイヤや材料のプロトタイプを出展すると、大きな反響がありました。マスコミやアナリストの方から「本当にできるのか」といったご意見が出たため、2024年の厳冬期に当社の北海道・旭川テストコースにお招きし、私自身も立ち会って試走会を開催したのです。「アクティブトレッド」の最新改良版は、主催した私が驚くほどの仕上がりで、参加された方々からも「これはすごい性能」と評価をいただきました。
試走会で自信を深めたことから、私はお取り引き頂いている皆さま方に、「2024年秋、日本のタイヤが変わります」とお伝えしています。その根拠として、各種データもさることながら、一般ドライバーが実感できる性能こそ、「アクティブトレッド」の強みです。当社のゴルフクラブ「XXIO(ゼクシオ)」がロングセラーとなっていることが、多くのゴルファーがボールを打って「まっすぐの飛び」を実感できるのが大きな理由であるのと同様に、DryRoad水や温度でゴムが変化「アクティブトレッド」もまた雪道などでグリップ感を実感できる点にあります。これこそが住友ゴムが提供する価値であるとともに、新たな収益機会を生み出す原動力であると考えます。ぜひご期待ください。

ACTIVE TREAD
アクティブレッド技術
JAPAN MOBILITY SHOW 2023

「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で発表

次世代EV向けタイヤを2027年をめどに発表

「アクティブトレッド」は、「スマートタイヤコンセプト」という大きな構想の一部に過ぎません。当社では二の矢、三の矢を間断なく放っていく考えです。具体的には、2027年に「アクティブトレッド」を搭載した次世代EV向けタイヤの発表を計画しています。
EVはガソリン車よりトルクの大きい分、タイヤの摩耗が激しくなります。また、転がり抵抗が劣るタイヤでは燃費ならぬ電費が悪くなり、航続距離が短くなることが予想されます。こうした課題に対して、当社は着実に対策を講じたタイヤを上市していきます。今後、EV時代の本格到来を見据えて、EVの航続距離への貢献、お客様の安全への貢献、そして地球環境への貢献を使命に、新たな成長軌道を目指していきます。

車の故障予知ソリューションサービス、「センシングコア」

「アクティブトレッド」に続く、当社独自のタイヤ技術が「センシングコア」です。これは過去5,300万台超の採用実績のあるタイヤ空気圧低下警報装置「DWS」の機能をはじめとし、すでに確立している4つの機能に加えて、新しい機能を拡張したソリューションサービスです。来るべき「CASE+サステナブル」という車社会にさまざまな面で大きく貢献できることから、ビジネス化を急ピッチで進めているところです。事業化の具体例として、2024年に「センシングコア」を自動車メーカーに導入していただきます。また、車両部品の故障予知で実績のある米国Viaduc(tバイアダクト)社との関係強化に向けて出資を行いました。同社とはすでに2023年から、同社のAIを活用した車両故障予知ソリューションサービスと、「センシングコア」によるタイヤの状態把握を組み合わせた実証実験を行っています。同社への出資を通じた戦略的パートナーシップ強化により、車両全体の故障予知ソリューションサービスの展開を加速させていきます。
こうしたソリューションサービスの魅力は、タイヤ工場のような巨大な生産設備を持つ必要がなく、少ない投資で早期にリターンを得られる点です。製造業に比べて限界利益率がきわめて高く、ROICの観点から好ましい事業形態となります。
当社としては、Viaduct社の技術とセットで、価値をさらに高めた「センシングコア」を打ち出していきます。私は「センシングコア」の技術メンバーに対して、「何も恐れることはない。前を見て突き進め」と励ましています。すでに世界の数百社のお客様に対するプレゼンテーションに着手しています。この独自技術によるデータビジネスで、2030年には利益100億円以上を稼ぐ第四の事業の柱を目指していく考えです。

SENSING CORE

「ゴムといえば住友ゴム」と言われる存在を目指して

今後、当社の企業理念「Our Philosophy」の「Purpose」である「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」を体現していくことこそ、当社のタイヤ事業にとって最大の課題と認識しています。
また、当社の技術コンセプトである「スマートタイヤコンセプト」、その中でも「アクティブトレッド」と「センシングコア」を進化させ、製品やソリューションビジネスにつなげていきます。これによって、他社との差別化が図られ、将来のモビリティ社会、サステナブルな社会に貢献できるものと考えています。
最後に、私の夢はいまだに構造上不明な点が多いとされるゴムの本質に迫ることです。まだまだ探求の余地があるゴムだからこそ、本質を究めると今までにないビジネスを生み出せるのではないかと思っています。
さらには、当社が「ゴムといえば住友ゴム」と言われ、ゴムのパイオニアとして、ゴムの先進技術を担うグローバルメーカーを目指したいと考えます。どこまでもゴムの可能性を信じつつ、挑戦してまいります。