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写真:代表取締役社長 山本悟写真:代表取締役社長 山本悟

構造改革が着実に進行している現在、
「Our Philosophy」具現化のための
取り組みを加速し、
さらなる成長に向けた経営基盤を
確立していきます。

住友ゴム工業株式会社
代表取締役社長
代表取締役社長 山本悟代表取締役社長 山本悟

大震災を二度経験した企業としての思い

この度の能登半島地震で被災された皆さまに心よりお見舞いを申し上げるとともに、一日も早く平穏な生活を取り戻されることを心よりお祈り申し上げます。
当社は1909年に神戸で「ダンロップ護謨(極東)」として創業して以来、ゴム素材と技術を基盤とした商品の製造、販売で事業を拡大してきました。その間、1995年の阪神・淡路大震災では、神戸工場や技術開発センターが壊滅的な打撃を受けたうえ、従業員やその家族、取引先にも甚大な被害が生じました。当時を振り返るに、まさに企業存続の危機に直面したといえます。さらに、2011年の東日本大震災でも、タイヤの基幹工場である福島県の白河工場が被災し、一時操業停止に陥りました。二度の被災に対して全従業員が一致団結して復興に立ち向かったこと、さらにお取り引き先様やお客様から多大なご支援をいただいたことにより、苦難を乗り越えることができました。
このように復興を成し遂げた当社だからこそ、今回の被災地の復興を支援するとともに、いずれまた発生すると想定される地震に備えて、当社の制振ダンパー事業をはじめとした事業活動を通じて強い街づくりに貫献していきたいというのが、私の強い思いであります。

取引シェアは「お客様からの信頼の総量」

当社は住友グループの一社として、住友の源流企業の創業以来、約400年にわたり受け継がれてきた「住友事業精神」を企業理念の基盤としています。この中には、「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し、社会を利する事業でなければならぬ」という社会に対する強い使命感が込められています。その「住友事業精神」の中で掲げられている「信用を重んじ確実を旨とする」は、当社の経営理念「Our Philosophy」で一人ひとりが大切にすべき価値観として「住友ゴムWAY」に採用しているほど重視しているものです。
長きにわたりタイヤ事業のマーケティングや営業、海外事業といった業務に身を置いてきた私にとって、ビジネスの基本は信頼の構築にほかなりません。お客様からの信頼に常に応え、お互いの関係を強固にすることで、長期にわたる安定したビジネスを確立できるというのが揺るがぬ信念です。経験上、お客様からいただく取引シェアはいわば「お客様からの信頼の総量」と考えます。商品やサービスはもとより、個人や会社としての過去の実績、立ち居振る舞いを含めてお客様から信頼を得てこそ、継続したお付き合いがいただけるものです。その点、社長になって以来、国内外の多くのお客様とお会いする中で、高いシェアをいただいているお客様が多いことは、当社に対する期待の大きさや過去から蓄積された信頼関係の強さであると感じています。今でも、お客様から当社の対応や従業員の誠実さを評価していただく声を頂戴するたびに、日々の業務で「信用と確実」が発揮されているとうれしく思います。

社長就任後に策定した「Our Philosophy」に込めた思い

当社の企業理念体系である「Our Philosophy」は、社長就任後の2020年に策定したものです。海外を含めた事業所を訪問する中で、約4万人に上る多様性に富んだ従業員がいることを認識しました。こうした大勢の仲間が心を一つにして進んでいくためには、共通の拠り所が必要と考えたのです。
国内外の拠点が情報やノウハウを共有し連携を深めていけば、当社グループの総合力は向上し、収益性を高めることができるに違いありません。また、大切なことはすべてのステークホルダーの皆様に「安心とヨロコビ、感動を提供し続ける」ことであります。
そこで、私たちが長年大切にしてきたダンロップの「挑戦、信頼、愛情」と住友事業精神を踏まえて、当社の企業理念として再編したのが「Our Philosophy」です。「Purpose」である「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」を筆頭に、私たちの信念、ありたい姿、価値観、そしてスローガンを定めています。これらを意思決定や行動の拠り所とし、グループ全従業員のベクトルを合わせることで、計画の実行力が高まり「あるべき姿」に近づいていくと確信しています。
加えて、私が常々社内に発信しているのは、「安全・品質・コンプライアンスの上にビジネスは成り立つ」ということです。これらはものづくりの会社として存続、発展していく根本であるとともに、「Our Philosophy」の実践によって担保できると考えます。そして、何より社長である私自身が率先して「Our Philosophy」を実践し、従業員への浸透にも取り組むことで、正々堂々とした事業活動に努めていきます。

中期計画の進捗
2027年度の目標はステークホルダーへのコミットメント

2020年に発生したパンデミックの影響、その後の原材料価格や海上運貨の高騰といった外部環境の逆風が重なり、2022年度の業績は過去最低の水準にまで落ち込みました。この苦境を踏まえ、ピンチをチャンスに変えるべく私の思いを織り込んで2023年度にスタートしたのが、2027年度までの中期計画です。計画の策定にあたっては、過去十数年の活動と現状を振り返りました。その結果、タイヤ事業において、グローバル体制が強化された一方、様々な非効率が生じ、収益の低下をもたらしているという認識に至りました。そこで、ROICの考え方を導入し、ターニングポイントとする2025年までに、既存事業の選択と集中に注力する方向に舵を切ったのです。併せて、成長事業の基盤づくりとDXの推進に取り組む方針としました。

写真:代表取締役社長 山本悟

1年目となる2023年度については、中期計画の着実な実行に加えて、足元の業績改善に注力しました。
具体的には、ここ数年大きく高騰していた原材料価格や海上運貨が元に戻ってきたことから、外部環境の追い風を最大限取り込むとともに、各市場で推進してきた商品の値上げをはじめ、お客様のご理解を得ながらの低採算ビジネスの縮小、高付加価値商品の拡販による販売単価の向上に努めました。加えて、経費やコストの抑制に全社で注力した結果、採算性が大幅に改善しました。スポーツ事業については2023年度の事業利益が過去最高を達成し、全社では下期事業利益が過去最高を達成しました。
また、2020年から進めてきたBTC活動※は国内のみならず海外グループ会社65社に広がり、7,000件を超える施策が実行されています。部門を越えた連携が活発になり、新たな挑戦が次々に始まっており、これが中期計画を推進する強力な原動力となっています。
以上のような取り組みの結果、2023年12月期は財務面で大きな成果が表れました。キャッシュの創出では、利益増に加えて、BTC活動の運転資金タスクフォースの活動でCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)改善に取り組み、全社での在庫圧縮、債権回収条件の短縮、投資抑制などの改善が大きく進みました。フリーキャッシュフローが初めて1,000億円を超えたのも、BTC活動の成果の一つです。
今後、中期計画で描く2027年までの展望として、ターニングポイントである2025年までは構造改革を着実に進め、次の飛躍に向けて経営基盤を強化する期間と位置づけています。一度しゃがんで力を蓄え構造改革の目途をつけた後、2026年以降の成長に向けて大きくジャンプしていく考えです。そのための成長事業の種まき、必要な投資を進めていきます。
2027年度の目標は、ステークホルダーの皆様へのコミットメントと認識しています。経営指標が大幅に良化した2023年度の流れを一層加速させ、構造改革を確実にやり切り、2027年度の財務目標の前倒し達成につなげていくことが私の責務です。私自身が先頭に立って、中期計画の推進、諸課題の解決に真正面から取り組み、さらなる高い目標に向けて確実に歩みを進め、「収益力の住友ゴム」を復活させる覚悟です。

※BTC活動...2020年にスタートした社長直轄の変革プロジェクト「Be the Change」プロジェクト。組織体質の改善と利益基盤の強化を図ることが目的。

2025年のターニングポイントに向けて、構造改革を着実に実行する

構造改革については、事業ポートフォリオの最適化を図るため、既存事業の選択と集中に取り組んでいます。市場の成長性やROICをもとに当社事業の位置づけを明確にし、約10の事業・商材を選定しました。その内、2023~2024年を目途付け時期としていた6つの事業・商材については、十分に議論を行いながらも、データに基づきスピードにこだわって見通しを立てていきます。
2023年度では、国内家庭用ガス管事業からの撤退、欧州医療用ゴム事業を手掛ける製造・販売子会社LonstroffAG(ロンストロフ・アーゲー)の売却を決めました。これらの事業を担ってきた人材や技術開発、投資などのリソースを成長が見込まれる事業ヘシフトさせることで、全体としての収益向上を図ります。
「構造改革の1丁目1番地」と私が位置づけているタイヤの米国事業について、2023年度は当初の計画以上に取り組みが進捗し、北米事業全体として黒字化を果たしました。日本やタイの工場から米国への輸入販売について、高付加価値商品の供給を増やすというアロケーション変更をタイムリーに行うとともに、生産コストの面で競争力が高いタイ製輸入品を増やすことで、増益につなげています。
また、販売においては、値上げの浸透、タイムリーなアロケーション変更に注力したほか、主力のFALKEN(ファルケン)ブランドが引き続き好調を維持しました。さらに、北米市場で高評価を得ている高付加価値商品のSUV用「WILDPEAK(ワイルドピーク)」シリーズも、売上が前年比120%を超えました。販売プログラムや販売員教育を含めて販売基盤強化が進んだことが、黒字転換の原動力となったと考えます。
今後の見通しとして、2024年1月に「ワイルドピーク」シリーズの新商品を投入したことで、さらなる増益を目指します。新商品は、性能向上はもちろんのこと、米国消費者のデザイン嗜好に応えて開発しており、販売は計画以上に順調に推移しています。一方、米国工場の改善にも取り組み中です。増産効果や日本からの支援による生産性向上が奏功し利益改善が進んでいますが、立て直しは道半ばです。改善の進捗状況やROICによる将来見通しなどを踏まえ、あらゆる選択肢を検討して、改革の目途をつける考えです。
なお、構造改革の一環として、タイヤ事業の運営・組織に関して、本年1月にタイヤ事業本部を発足しました。製造・販売・技術一体での運営により、あらゆる面で効率化を推進し、収益向上を図ります。私は長年にわたり国内市販用タイヤやアジア・オセアニアのタイヤ事業を担当してきた中で、現場の課題について考えてきました。中でも、各部門領域では最適化を図っているものの、それが全社最適につながっているのか、課題への対応が部門横断でスピード感を持って解決できているのかといった点に疑問を抱いていました。
そこで、今回のタイヤ事業本部の新設では、部門の壁や部分最適の取り組みを排除し、製造・販売・技術の一体運営で全体最適を意識し、あらゆる面での効率化を図ることにしたのです。これにより、中期計画の実行力が高まることと利益の追加創出に期待しています。
今後、構造改革をさらに加速させる施策として、DXの推進も欠かせません。当社では「事業の営みにより発生するデータを、人手を介さず経営に活用し、競争上の優位性を確立すること、そしてデジタル化されていく社外ネットワークと確実につながること」で、事業環境の変化に迅速に適応し続ける経営を「DX経営」としています。
DXの推進による経営改革については、2025年までに基盤となる基幹システムの刷新が完了する見込みです。そのほか、サプライチェーンマネジメントや調達、技術・生産、人事領域でDXを推進中です。また、DXを担う人材の育成にも力を入れています。2022年よりDX人材育成を推進しており、2023年末までの累計受講者数は2,220人、2024年末で3,500人の目標を掲げています。さらには、DXによる業務改革で生産性を上げる組織を新設し、DXを通じて構造改革をより確かなものとしていきます。

成長事業の基盤づくり
路面状況に応じてスイッチする“ゴムの技術革新”

将来のCASEやサステナビリティなど社会のニーズや期待にいち早く応えていくため、当社は独自技術の「アクティブトレッド」の実用化と「センシングコア」の事業化、さらにはスポーツ事業、産業品事業における新たな取り組みを進めています。
何よりもお伝えしたいことは、当社の成長戦略の柱である「アクティブトレッド」と「センシングコア」が、2024年度内に実用化し、ビジネスの収益化に向けた動きが始まるという点です。
タイヤは、晴れの日には安全に走行できますが、雨の日には路面に雨水がたまり、滑りやすくなります。また、冬場の低温環境下では路面の凍結や積雪によってさらに滑りやすくなります。私たちが開発した「アクティブトレッド」は、雨(水)が降ったり、気温(温度)が下がったりするとゴムが柔らかくなりグリップ力が増して滑りにくくなります。この機能は、路面の状況に対応しタイヤのゴム自体が変化し適応するという、これまでのタイヤの常識では考えられない特性を持っています。このように路面環境の変化に応答し、より滑りにくいゴムへ変化することができる独自技術が「アクティブトレッド」です。2024年秋には、同技術のコンセプトを搭載したオールシーズンタイヤの新商品を発売する予定です。
2024年1月、北海道の当社テストコースで、私が自らハンドルを握り、氷雪上性能のレベルと完成度を確認しました。1年前の冬にも試乗したのですが、この1年間で完成度がさらに高まっています。雪や氷の上、特にカーブにおける横方向のグリップ性能や、ブレーキを踏んだ時の安定した制動力など、従来の当社製オールシーズンタイヤを超えるのはもちろん、スタッドレスタイヤに近い性能※が出せていることを実感しました。一般ドライバーにも進化した性能を実感いただけると確信しており、これから先、自動車用タイヤのゲームチェンジャーになり得ると今からワクワクしています。
さらに2027年には、「アクティブトレッド」技術搭載の次世代EV(電気自動車)向けタイヤの発表を計画しています。具体的には、EV向けタイヤに求められる転がり抵抗の低減や軽量化に挑んでいるところです。将来、アクティブトレッド技術により自動運転やサステナブルな社会のニーズに応えて、タイヤの履き替え回数を減らし、省資源化に取り組むことで持続可能な社会の実現を目指します。

※自社スタンダードスタッドレス「WINTER MAXX 02」の方が氷上制動において僅かに優れています。

自動車の安全・安心な運行管理に貢献する「センシングコア」

続いて「センシングコア」についてお伝えします。これはタイヤ開発で培った「タイヤの動的挙動に関する知見」と「タイヤの回転により発生する車輪速信号を解析する技術」を融合させ、タイヤの空気圧・荷重・摩耗状態、更には路面状況を検知する当社独自のセンサーレスのセンシング技術です。四半世紀以上で累計5,300万台の実績がある「DWS(間接式空気圧警報装置)」の開発の中で培った、当社の独自技術が基盤になっています。
大きな特長は、ソフトウエア技術であることから、追加のセンサーやバッテリー交換が不要なメンテナンスフリーである点です。車載のコンピュータにインストールでき、あらゆる車両とタイヤに対応します。しかも、ソフトウエアをアップデートすることで検知機能の拡張が可能となります。
「センシングコア」技術の事業化を2024年から開始し、2030年には事業利益100億円以上を目指します。今年、乗用車向けは一部、海外自動車メーカー向けに先行採用を決定しており、大型車向けは車輪脱落予兆検知の提案を推進している段階です。将来はクラウド経由で街や社会の情報に統合され、ビッグデータとして解析されます。そして、そのデータは車両にフィードバックされ、タイヤや路面に起因する危険を事前に察知し、回避することが可能になると想定しています。
2024年1月、当社は米国ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー展示会「CES」に初出展しました。私自身、会場に出向き、当社ブースで来場者を前にプレゼンテーションを行いました。この出展を契機に「センシングコア」による新たなビジネスを世界に広め、我々の夢を一緒に実現するためのパートナーを探したいと、熱い思いを直接伝えたのです。「CES」への出展は来年も継続して実施し、当社の取り組みをグローバルに発信していく考えです。
また、「CES」の会場において、車両部品の故障予知で実績のある米国Viaduct(バイアダクト)社への出資も発表しました。Viaduct社とは2023年から、彼らのAIを活用した車両故障予知ソリューションサービスと、「センシングコア」によるタイヤの状態把握を組み合わせた実証実験を行っています。車両故障予知の分野で世界最先端の知見を持つViaduct社ですが、彼らからしても唯一のブラックボックスがタイヤのセンシングだったのです。今回、同社との戦略的パートナーシップの強化により、車両全体の故障予知ソリューションサービスの展開を加速させていきます。
実際、スマートシティ化が進む中国・蘇州市では、「センシングコア」活用の実証実験が始まっています。2023年11月に私も現地入りし、この実験を視察してきました。「センシングコア」を搭載した自動運転バスから送信されたデータを解析し、路面状況などの情報を運行管理者にフィードバックすることで、安心・安全な運行管理をサポートしています。
以上、成長戦略の核である「アクティブトレッド」と「センシングコア」の2つの技術が、2024年にいよいよ実用化される点について、お客様との交流会では質問攻めになるなど、皆様の関心の高さが際立っています。今後の展開にぜひご注目ください。

新たな成長ステージへと向かうスポーツ事業と産業品事業

スポーツ事業については2020年のパンデミックの影響による赤字からV字回復を果たしており、2023年度は事業利益率が約10%に向上し、同事業として過去最高利益を達成しました。
特に、最大のゴルフ市場である北米で売上を大きく伸ばしており、ゴルフ業界における「グローバルTOP3」に向けて着実に前進しています。北米では、積極的な営業施策、PGAツアーでの契約選手の活躍などにより、ゴルフクラブおよびボール販売が好調に推移しています。さらに、13代目となるゼクシオ・ゴルフクラブを2023年12月から日本を皮切りにグローバルで発売開始し、好調なスタートを切りました。当社独自のテクノロジーを投入した新商品で、販売をさらに強化していきます。
産業品事業では、制振ダンパーに注力しています。これは地震の際に繰り返される揺れを抑える製品です。独自のゴム技術により、揺れエネルギーを吸収する能力の高いゴムを開発し、お客様のニーズや用途に合わせて様々な仕様の制振ダンパーに活用することで、暮らしの安心・安全を提供しています。
冒頭で申しました通り、阪神・淡路大震災や東日本大震災を経験した当社だからこそ、地震に対する備えの重要性を知っています。具体的な対策、ノウハウも含め、制振ダンパーの普及活動を強化していきます。
特に新築住宅用「MIRAIE(ミライエ)」は、実物大の実験で震度7の揺れに14回耐えること※1が確認されています。今後、お客様の安心・安全につながる商品との位置づけで、制振ダンパーの拡販、普及を図る考えです。
「MIRAIE」を含めた当社の制振ダンパーは石川県で約4,500棟に施工実績があり、能登半島地震の震度6弱以上の地域では約300棟を数えます。現地に支援物資をお届けすることにあわせて、従業員が制振ダンパー施工住宅を訪れたところ、当社の制振ダンパーを導入頂いていた建物は全壊・半壊ゼロ※2だったことを確認しました。また、「MIRAIE」を装着していただいたお客様から、「事前に設置していて良かった」、「家や家財を守ることができた」といった声をお聞きして、お客様の安心・安全に貢献できたと実感するとともに、社会に役立つ製品であることを再認識した次第です。
当社の制振ダンパーは、住宅用に加えて、熊本城などの歴史的建造物やビル、物流倉庫などにも活用が進んでいます。独自のゴム素材技術を活用し、これまで以上に性能を上げて多くのお客様に利用していただくことで、地震に強い街づくりに貢献していきたいと強く感じています。

※1 2018年2月京都大学防災研究所でのMIRAIE軸組を使用した実大実験の結果による
※2 2024年6月4日時点 当社が把握している範囲において

長期の事業展望
構造改革を断行し、将来に課題を先送りしないことが私の責務

中期計画で描いた方向に加えて、その10年先、20年先を見据えて、今からできることをできる限りしておきたいと考えています。そのために、まずは構造改革を断行し、将来に課題を先送りしないことが私の責務です。
この先、「Our Philosophy」を体現していくために大きなポイントが2つあると考えます。一つは人と組織、もう一つは他社に先駆けた技術開発力とイノベーションです。
前者については、「Our Philosophy」の中の「Vision」に掲げる「多様な力をひとつに、共に成長し、変化をのりこえる会社になる」に向けて、多様な従業員が互いに尊重し合い、個々の力を最大限発揮できる職場環境とし、グループの力を束ねて一体感をもって課題に取り組める企業風土をつくることが重要です。社長に就任して以来、BTC活動などを通じて取り組んでおり、今後も私が率先して、規律の上に立った心理的安全性のある職場づくりを進めていきます。
2023年度は、国内の従業員との対話集会を13事業所で年間計26回行い、のべ4,241名が参加しました。この対話集会は、従業員からの率直な意見や質問を受け、私の考えを直接伝える場となっています。こうした活動を今年は国内に加え海外にも拡大して従業員との認識共有、ベクトル合わせをしっかりと行っていきます。
後者の他社に先駆けた技術開発力とイノベーションについては、スローガンである「ゴムの先へ。はずむ未来へ。」に、最先端のゴム技術と、そこから広がる新たな技術開発や価値提供の意味を込めています。ダンロップのDNAであるチャレンジ精神やパイオニア精神のもとで技術革新をしていくこと、そしてイノベーションを生み出していくことが当社の発展につながると確信しており、その種まき、環境づくりに継続して注力していきます。

サステナビリティ経営の推進
環境、社会、ガバナンスの諸課題にコミットしていく

サステナビリティ経営の諸課題に真摯に取り組んでいくこともまた、重要な経営課題の一つです。環境や社会領域における重要テーマについて、取締役会直轄のサステナビリティ推進委員会の傘下に関連部会を設置し、全社で取り組みを推進しています。
環境面に関しては、カーボンニュートラル実現に向け、温室効果ガス排出量のスコープ3における2030年の削減目標を設定しました。それに合わせてスコープ1、2の削減目標についても目標を引き上げました。また、福島県の白河工場で実証実験を進めてきたタイヤ製造工程における水素の活用についても継続して取り組んでいきます。加えて、当社は天然ゴムという自然資本を活用して事業を営んでいることから、生物多様性に配慮した取り組みも積極的に進めていきます。2023年11月には、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)開示の枠組みに賛同し、12月に早期採用者(Early Adopter)に登録しました。また、タイヤ事業におけるTNFDに基づく初期的開示も行いました。今後も事業活動を通じた生物多様性の保全、天然ゴムの持続可能な調達に貢献してまいります。
一方、社会面については、人的資本経営に関して、経営人材やDX人材、イノベーション人材など持続的な成長を支える人材の育成に取り組むとともに、そのベースとなる企業理念の中の「Vision」で掲げる「多様な力をひとつに」を実践するため、女性活躍やシニア人材活躍、障がい者活躍などのDE&I推進に努めていきます。さらに、人権尊重に関して、2023年11月には人権方針を策定し、社内外にコミットメントしデューデリジェンスの実施を進めています。

コーポレート・ガバナンスについては、取締役会の実効性を高める施策に種々取り組んでおり効果が表れています。たとえば、2023年3月から社外取締役が取締役会の議長を務めています。新たな視点に基づく問題提起や議事運営がなされており、議論の活性化、実効性の向上が進んでいると認識しています。加えて、オフサイトミーティングを開催し、さまざまな経営課題について活発な議論を交わしています。
そして、時代の先を見据えた当社独自のサステナビリティ経営の取り組みが、タイヤ事業における循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想「TOWANOWA」です。これは限りある資源を循環させ、当社独自のビッグデータを活用することにより、お客様に新たな価値を提供し、当社の企業理念体系「Our Philosophy」の体現を推進することを目的としたものです。タイヤ事業において効率的なモノの流れと資源の循環を目指す「サステナブルリング」と、バリューチェーン上の各プロセスから収集したビッグデータなどから構成される「データリング」を連携させ、資源の有効活用とCO2の削減に取り組むだけでなく、さらに安全で高機能なタイヤの開発やソリューションサービスの拡充など、お客様へ新たな価値の提供を目指しています。

写真:代表取締役社長 山本悟

「Our Philosophy」実現に向けて
何事もスピード感をもって真摯に取り組んでいく

当社は、一世紀以上にわたりゴム素材をベースにしたものづくりを追求し、数多くの世界初、日本初となる商品を社会に送り出してきました。これからもゴム素材の可能性を追求し、持続的な成長を目指したいと考えています。ゴムとは不思議なもので、未だに成分や機能など解明されていない面が多々あります。だからこそ可能性は大きいと言えます。
今後、中期計画の確実な推進をはじめ、業績改善を通じた財務目標の前倒し達成、新たな成長の種まきに加えて、「CASE+サステナブルな社会」への貢献、サステナビリティへの取り組み、多様な人材の活躍など、取り組む課題は多くあります。10年後、20年後も、ステークホルダーの皆様から期待され、高い評価をいただける会社であり続けられるよう、それぞれの課題に優先順位をつけて、何事もスピード感をもって真摯に取り組んでまいります。
私としては、「住友ゴムは次にどんな価値を生み出してくれるのか」という期待感を持っていただける会社にしたいのです。さらには、誰もが予想をしなかった価値を社会に提供したいと考えています。今後の諸課題の進捗については、良い点、悪い点を含めて皆様に率直にお伝えしてまいります。
私たちは挑戦を重ね、「Our Philosophy」が指し示す道へまっしぐらに進んでまいります。これからの住友ゴムにぜひご期待ください。そして、引き続きご支援をよろしくお願いいたします。