研究開発担当役員対談

写真:村岡 清繁/國安 恭彰写真:村岡 清繁/國安 恭彰

「未来をひらく」とは、
次世代につながるということ

取締役
常務執行役員
研究開発本部長
村岡 清繁

常務執行役員
タイヤ技術本部長
國安 恭彰

グローバルなタイヤの開発競争について

村岡

自動車産業は、100年に一度と言われる大変革期を迎えています。私たちは当初、これを電気自動車、自動運転といった自動車産業に限った観点で見ていました。これにESGやサステナビリティという視点が加わった瞬間、つながりを持つ、すべての産業を巻き込んだ、大がかりな変革となって加速していると感じています。
タイヤの開発競争として見た場合、タイヤの持つ特性を磨いていくという、従来からの開発の方針はそのままに、電気自動車や自動運転になり、タイヤの持つどの特性に対する要求が更に加速されるかという点が加わるだけです。
一方、ESGやサステナビリティの視点が加わると、サーキュラーエコノミーを前提に、リサイクルしやすい素材選びなど、新たなタイヤの考え方を構築していかなければなりません。さらに、「モノからコトへ」という観点から、持っている情報を活かし、単なるモノ売りではなく、そこにどのようなサービスを付けていくのかを考えていくことが必要です。

國安

私たちのお客様は自動車メーカーだけでしたが、現在は家電メーカーがすぐにクルマをつくれる時代になってきました。家電メーカーが自動車メーカーと戦うため、どのような付加価値を付けていくのかを私たちも考えなければなりません。
例えばゲームをしながらリラックスして移動できるよう、更にノイズを下げるといった特性が更に重要になるという事や、私たちがまだ知らない新たな価値観が出てくるかもしれません。

村岡

つまり、今までのTo Doリストでは足りないということです。波及する業界や関連する事柄が非常に広がっています。
あるいは、従来からの考え方でのモノづくりでは終わらず、そのモノをどのように使うのか、どのようなサービスを付け加えて使うのかなど、新しい見方も追加しなければなりません。タイヤを売ったら終わりではなく、その後も関係が継続するようにすると、価値観も変わってくると思います。

國安

To Doリストのプラスアルファを埋めるため、今取り組んでいるのが、タイヤの空気圧を常時モニタリングするTPMS(Tire Pressure Monitoring System)といったデータを外部とつないだ「センシングコア」ビジネスの展開になります。

TPMSの詳細はこちら
村岡

新たな価値観をどのようにキャッチし、それにミートしていくのかが、これからの大きなポイントです。

國安

タイヤメーカーとしては安全・安心をお客様に提供してご満足いただくということを、期待を裏切らずにやり続けていくこと。そしてプラスアルファとして、ESGやサステナビリティに貢献する部分を、メーカーとのコラボレーションによって新たな価値を創造していくという2軸になっていきます。

住友ゴムグループの研究開発における強みとは

村岡

「先進性」です。先を走っている、そのときは分かりませんでしたが、私たちの技術には、当時は誰もフォーカスしていなかった技術が今につながったものが数多くあります。

國安

例えば、EVはエンジン音がなく、路面やタイヤノイズを感じやすいといわれ、当社独自技術の「サイレントコア」が注目されています。タイヤ内部の空気振動をスポンジが吸収することで、高い静粛性能を実現する技術です。実はこの技術、タイヤノイズの原因をタイヤ内部が空洞であるために発生する空気の共鳴音であると突き止めた研究者が、新聞紙を丸めてタイヤに突っ込んだら音が消えるかもしれないと発想し、発展させた技術なのです。

村岡

こうして行き着いた「サイレントコア」も、当初は、他社が注目する技術ではありませんでした。その後、他社もこの技術の優位性に気付き、対応手段を出してきました。このような先進技術を究めることで市場競争に生き残ってきたと思います。

サイレントコア

説明図:サイレントコア
路面の凹凸によるタイヤ内部の空気の振動を抑制するダンロップの技術です。
國安

タイヤパンク応急修理キット「IMS(Instant Mobility System)」も、当時はあまり注目されなかった技術でしたが、EV化でバッテリー搭載のため、スペアタイヤを搭載しない手段として大きな注目を集めています。スペアレス技術にはIMSのほか、パンクしても一定距離の走行が可能なランフラットタイヤ、トレッド部の裏側にシール剤を塗布しパンク時の空気漏れを防ぐシーラントタイヤと、技術の引き出しが多い点も当社の強みです。

村岡

私はよく、若い研究者に「時流をつくりなさい」と話します。他社に先駆けて、お客様に「これどうでしょう」ということを提案する。これが、「自動車タイヤ国産第一号」から脈々と続く、数多くの世界初・日本初の商品・サービスを生み出してきた住友ゴムグループの強みです。

これからの研究開発の方向性、課題とは

國安

タイヤとしては2つの方向性があると考えています。1つ目は変革するモビリティに対して付加価値のあるタイヤを提供することです。EV化はもとより、今後発展する自動運転技術にはタイヤ性能の持続性や、路面状況を把握できる技術を開発中です。2つ目はサステナビリティ社会に貢献することです。タイヤ部材のリデュース、リユース、リサイクルできる技術開発に取り組んでいます。

村岡

材料面では、環境対応という観点から、バイオマス(動植物から生まれた再生可能な有機資源)が注目され、各社が開発競争にしのぎを削っています。これまで各社が独自に開発してきたゴム材料は、素材のバイオマス化という方向性が今後進み、差別化が難しくなり、コスト面などから収れんされる方向に向かうと予想しています。今後は、原材料の使用の少ない軽量化タイヤという設計面や、タイヤ製造でいうミキシング(混合・精練)など加工プロセスも含め差別化していく必要があると考えています。

また、バイオマス材料の活用は、タイヤメーカーだけでなく、ほとんどの企業が検討をしていますが、とても今の石油の使用量を賄うだけの量はありません。持続的に量を確保する点では、リサイクル材料も活用すべきです。日本にはタイヤをリサイクルする仕組みがありますが、そのほとんどが熱資源として利用されています。これをいったん原料に戻して活用することを考えなければなりません。これは業界全体で新たな仕組みをつくっていくべき課題だと考えています。

タイヤ技術開発コンセプト「SMART TYRE CONCEPT(スマート タイヤ コンセプト)」の見直しは必要ですか

國安

「SMART TYRE CONCEPT」は、未来のモビリティ社会で求められる安全性能と環境性能を、現状よりさらに高い次元で両立するタイヤを開発することを狙っています。つまり、サステナビリティに寄与するため、溝深さを減らしながら摩耗性能長持ちさせるとか、摩耗したときの安全性を担保するといった取り組みは、この基本路線の延長線上にあり、ずっとやり続けなければならない事柄だからです。

村岡

私も同感です。今でこそ環境性能と表現していますが、「基本性能を絶対に進化させなければならない」という着眼からスタートし、性能持続という機能を追求してきたことが時代の要請である「環境に良い」にミートしたといえるでしょう。

技術コンセプトというカタチでしっかりと世の中に問いかけてきたことが他社との違いだと思います。打ち出したコンセプトに対してお客様のリアクションを分析し、足りない部分を補いながら、機能を進化させてきたのです。

SMART TYRE CONCEPTの詳細はこちら

スマートタイヤコンセプト概念図

説明図:スマートタイヤコンセプト

研究開発として「Our Philosophy」をどのように実現していきますか

國安

「Our Philosophy」の「未来をひらく」は、製造業である以上、普遍的な言葉かもしれません。ただし、イノベーションの起こし方が大きく違って「トップダウン」から「自発的」に変わるのが今の時代ではないでしょうか。若い技術者が「やりたいことをやって自己実現できる」が根底にあり、社会への貢献というモチベーションでスパイラルアップしていく循環ができていくと良いですね。彼らが持っている“熱いもの”を、1人では難しくても、100人で“やろう!”となれば、絶対に動きます。
仲間づくりも「Our Philosophy」の一つですね。

村岡

私が好きなのは「未来をひらくイノベーション」というフレーズです。これまでもさまざまなイノベーションが起こり、人々の生活は快適になっていっています。手動から自動に、安く・大量にものがつくれる時代になっています。これも確かにイノベーションですが、一方で、今、環境問題、資源の問題で、地球の存亡に関わる状況です。未来をひらいているでしょうか。「未来をひらく」とは、自分の子どもや孫、その世代のためのイノベーションであるべきです。“自分たちの生きている間に恩恵を受けようというのはちょっと違うよね”という点がすごく気に入っています。今、私たちが受けている恩恵も、過去から脈々と築かれてきたもの。この考え方を次世代に受け継いでいきたいと考えています。

「住友事業精神」を象徴するのが別子銅山で、鉱毒によって森林や近隣に及ぼした被害を歴代の総理事が時間と費用をかけて元通りにしたという点です。私は何度も登りましたが、本当にきれいな森に再生しています。今、私たちが直面しているのは、これと同じではないでしょうか。このままでは地球が禿げ山になってしまう。だからこそ、私たち人類がいつまでも住み続けられる世界に戻さなければならない。これが「Purpose」の示す世界だと考えています。私は、この2つをこれからも大切にしていきたいし、ずっと先の世代にまで伝えていきたいと考えています。