ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)鼎談

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写真:井川 潔/其田 真理写真:井川 潔/其田 真理

時代がどれだけ変わっても、求められるのは人間力

住友ゴムグループでは、2020年に策定した企業理念体系「Our Philosophy」を、社員の多様な力のベクトルを合わせて発揮するための拠り所とし、存在意義である「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」の体現を目指しています。これに先立つ2020年1月に「Be the Change」プロジェクト(以下、BTC)をスタートさせ、組織体質変革に取り組んできました。

ここでは、BTCを主導してきた井川潔執行役員と、其田真理社外取締役、アスリ・チョルパン社外監査役が、組織体質変革の進捗や住友ゴムグループの人的資本のあるべき姿について語りました(実施日:2023年3月27日)。

住友ゴムグループ社員の気質と課題

其田

当社の社員全体として誠実な印象があります。また、技術開発などに地道に取り組んで素晴らしい成果を上げています。これをもっとアクティブに発信できると良いと思います。また、さまざまなことにチャレンジしていくにあたって、もう少し多様性があるとさらに良いのにと感じる場面もあります。

ここでいう多様性とは、性別ももちろんありますが、外国籍の方、そして同じ日本人男性であってもさまざまな考え方やキャラクターの方も含まれます。

チョルパン

其田さんがおっしゃったように、私も、多様性が非常に大切だと思います。ここまで事業がグローバル化されていますから、海外と日本のコラボレーションがもっとあっても良いのではないでしょうか。

社外役員の立場から見たら、海外の外国籍のマネージャーと日本の本社とのコラボレーションが創出されているかどうか見えづらい部分があります。

井川

まず社員の特性では、真面目な人間が多いですね。与えられた仕事をしっかり遂行するという点では非常に高いレベルにあると思います。その一方で、野武士的な人や、この仕事はそもそも不要ではないかなど、物事の本質を捉えて仕事をする人がまだまだ少ないと感じます。

これまでのやり方で仕事を完遂してきた、そしてそのやり方を受け継いで今も現状をベースに改善を重ねていく、仕事をこのように捉える社員が多いために、時間外労働の常態化という慣習が根強くありますね。

仕事に優先順位をつけ捨てるべきものを潔く捨てること、ここに思い切りを持ち、時間外労働を是とする働き方を変えていくことが、D&Iにおける女性活躍において取り除いていくべき一つの障壁と認識しています。

そしてキーとなるのは、人間力です。目の前の人と腹を割って向き合えるコミュニケーションスキル、そしてスキルという枠を超えた、人間力の向上が急務と感じています。研修ひとつをとっても、課題解決やロジカルシンキングなど、いわゆる左脳系に偏っていました。

質問から少し外れてしまいましたが、人間力、そして本質を捉える力が肝要であると、会社として明確に宣言し、早急にレベルアップしていかなければならないと考えています。

グローバル化という点では、ここ数年で急激に拠点増も含め事業規模を拡大したこともあり、それを担う人材が不足しています。

また当社は、組織体質アンケートを自前で定期的に実施してきました。スタートした2020年は変化の機微を詳細に捉えるために四半期に1回でしたが、現在はアンケートの負荷も踏まえ適正と判断し年2回にしています。スコアは全体的に上がってきていますが、課題を抱えている部門、スコアが伸び悩んでいる階層など、要因を特定できたため、今後は全体施策から一歩踏み込んだ個別対策や、人事異動にまで踏み込んで変革するといったアクションが必要です。

BTCの成果と課題

井川

「Our Philosophy」では、「住友ゴムWAY」において、日々の仕事で常に意識すべきこととして「信用と確実」、「相互尊重」、それから「挑戦」の3つを明記しています。

「信用と確実」は元来住友グループの会社として意識してきた部分であり、あまり心配はありません。「相互尊重」も、ハラスメントを起こさない、人権の尊重といった基本的な取り組みだけではなく、人間力に焦点を当て、360度フィードバックを活用するとともに、経営層については特に社長から執行役員まで、エグゼクティブコーチをつけて改善に取り組んでいます。

一番の課題は「挑戦」です。「挑戦」の気風がなかなか醸成されないことには2つの要因があり、一つは心理的安全性が低いということです。これを言っても大丈夫か、もしくは失敗したらどうしようといった不安を持ってしまう状況のことで、心理的安全性については、アンコンシャスバイアスへの取り組みも併せて繰り返し啓発してきているため、徐々に浸透していると手応えを感じています。

根が深い問題がもう一つの要因である、現状を変えようとしないこと、いわゆる“安住”です。現状を変えなくても、ペナルティはないからと現状に甘んじてしまう。この状況が、「挑戦」を阻んでいるのではないかと考えています。

一定の条件下において、雇用と給与が保証されるという安心感は必要ですが、これからは「個人の成長への意欲に加え、会社の価値向上に寄与する社員により報いる」ことをはっきりと表明し、社員と企業が、選び/選ばれる関係にならなければならないと考えています。

組織体質アンケートで、社員が最もフラストレーションを感じている点は、評価の曖昧さです。管理職であれば、評価を各個人に明快にフィードバックしなければなりませんし、その力量がなければ、スキルセットの教育だけではなく、管理職のポジションを担う人材の交代も考えなければなりません。

其田

会社を変え、前進させていくとき、トップのコミットメントが非常に重要であることは言うまでもありません。山本社長も力 強いメッセージを社員に向けて発信し、今、動き出しているところです。改革を具現化していくためには、役員や社員の不断の取り組みが欠かせませんし、人事評価や人事制度に具体的にその取り組みを後押しする仕組みを織り込んでいかなければなりません。またKPIを設けるなど、明確なシグナルを発信し、目標もインパクトのあるものに設定する必要があります。

チョルパン

今のお話に付け加えさせていただきますと、最近、人的資本がホットなトピックです。人事部長の役割が非常に重要になってきており、取り組みを浸透させていくにはさまざまな制度を用意しなければなりません。例えば、時間外労働を減らして生産性の高さを求める仕組みにしたり、フレックスタイムを活用するなど働き方の柔軟性を追求すれば、女性をはじめ多様な属性の社員がより働きやすくなります。

また、海外にいる社員も含め、人材をグローバルに管理し、アロケートしていく方がより良い結果につながるのではないかと感じています。海外との人材交流は、どの程度進んでいるのでしょうか。

井川

海外拠点には、大きく分けて製造拠点と、販売会社の拠点の2つがあります。

製造拠点では、駐在員を起点として、現地法人の社員に本社の方針や計画を落とし込むという建て付けになっています。これに対して販売会社では、駐在員がいる拠点と、現地法人の社員が独立して運営する拠点が混在しているため、やはり製造拠点に比べると、会社方針といったメッセージの浸透やコミュニケーションに課題があるという反省があります。

そもそも、なぜ日本国内の組織に従来力を入れてきたかというと、BTCが始まるきっかけとなった組織体質アンケートで、海外拠点のスコアが非常に良かったのに対し、日本のスコアが低く、優先順位として日本国内拠点を先に取り組むこととした経緯があります。

ご指摘のように、国内外拠点において一体感をもっと醸成していく必要があります。現在、新たな中期計画の周知と理解を促進するため、社長の山本と国内拠点の行脚を始めました。今後は、海外拠点もリモートを活用し、コミュニケーションの場をつくっていきます。

私が感じる、BTCの一番大きな成果は、経営陣に「経営者の質を上げなければならない」と強く認識された点です。株主の皆様に配当をお出しできる源泉は、良い商品、良いサービスをつくることにあり、それを生み出すのは社員です。その社員がいきいきと働き、高いパフォーマンスを出していくよう導くのが、経営者の役割だと考えています。この2年、「経営者の質を上げる」という取り組みを行ってきた結果、経営者自身の覚悟が確固たるものとして醸成されてきました。経営者の質を上げることがリーダーシップの強化につながり、それが経営計画など、企業全体の方針実現の精度を高めます。

D&Iの社内への浸透

井川

D&Iも、結局のところ、個々人にどれだけ向き合えるかという問題であるため、リーダーシップの強化が重要です。

D&Iの取り組みでは、「Our Philosophy」のVisionである「多様な力をひとつに、共に成長し、変化をのりこえる会社になる」というメッセージが会社として共有されていることが当社の特徴です。

経験豊かな先輩社員であるメンターが、女性後輩社員のキャリア形成上の課題解決や悩みの解消を援助し、個人の成長をサポートする「メンター制度」など、現場に根ざした活動も拡大しています。私が感じている一番の変化は、工場の作業現場で女性作業員が働きやすいような作業改善や、女性用厚生設備を整備するなどの取り組みが加速している点です。そのような地に足がついた、カタチになって見える活動が進み始めていることは大きな進歩だと思っています。

チョルパン

今のお話は一番基本となる、女性の働きやすさのためのインクルージョンですね。女性の数を単純に増やすという取り組みもダイバーシティの一つですが、インクルージョンという観点では女性たちが男性と同じように働ける環境を整えることが大事です。

当社は女性管理職比率を2025年に7%にする目標を設定していますが、もう少し高いレベルを目指してほしいですね。

また管理職比率だけではなく、部長、役員などについても具体的な目標値を設定し、役員まで育つ仕組みを考えなければなりません。メンター制度については順調に定着しつつありますが、まだまだやるべきことがあります。山本社長をはじめ、役員の皆さんはD&I推進への強い熱意を持っているので、結果を出すことにもこだわってほしいと思います。

私も今年から、京都大学でエグゼクティブ・リーダー育成プログラムを立ち上げました。これからも、日本の女性たちをもっとエンパワーしていきたいと考えています。

其田

役員の意識がこの数年で随分と変わりました。今後は、社員が“会社が変わったな”と感じられる環境にしなければなりません。今の仕組みや制度が実効性をもって活用されるようにKPIなど部門ごとに具体的に落とし込んで具現化していかなければなりません。

なぜ、D&Iを推進しなければならないか。理由はたくさんありますが、人手不足が厳しくなる時代になっていきますから、今から前のめりで取り組まなければ人を確保できなくなる、つまり、会社の将来がかかっているのです。

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チョルパン

英語で言うglass ceiling、“ガラスの天井”があることで、女性が昇進したくてもできないことが一番の問題です。この問題についてさまざまな企業の男性と話すと、女性側の問題であると捉えている方が多いのに驚かされます。女性たちと話すと、“やりたいのにできない”という意見がほとんどです。女性自らの選択の問題ではなく、“自身が選択可能なオプションがないからできない”のだと思っています。

私も一児の母としてさまざまな経験をしてきました。ライフイベントや育児があっても働きやすい環境や制度があれば、もっとモチベーションを持って仕事に臨めるようになります。男性の考え方が変わり、職場の雰囲気や制度が変わっていけば、女性の役員比率も上がり、会社のイノベーションや最終的な企業パフォーマンスにまでつながるという研究もありますので、中長期的な成果を信じて推進していただきたいと考えます。

其田

女性管理職比率7%の目標は、競合他社に比べると高めの数字ではありますが、志はもっと高く持ちたいですね。

先ほど井川さんの話にも出てきましたが、働き方改革は、女性のためだけではなく、子育てはお父さんとお母さんがするものですから、すべての社員にとって働きやすい環境をつくるべきです。男女を問わず、病気を患ったり、病後であったりする社員ができる範囲内で働きやすいこともとても大切です。さらに、親の介護、あるいはパートナーの介護で時間に制約がある人もいると思いますが、育児以上に言い出しにくいという側面があることにも配慮しなければなりません。

男性の育休取得推進は、非常に大きなきっかけになると思っています。男性が実際に経験することで「こんなに大変」と感じて女性社員に対する見方が変わり、それがチームのマネジメントをする際にも反映されていくと信じています。制度はもうありますから、男性が高い比率で取っていく風土をつくることがとても大事だと思います。

働き方改革は、無駄なことをやめていかないと実現できません。業務の効率化、合理化とセットで進めなければなりませんので、自ずと生産性も上がり、まさに財務に反映するような成果として出てくるのではないかと思っています。

井川

女性管理職比率では、チョルパンさんのご指摘通り、役員層も含め、女性が普通に存在する状態にならないとダメだと思います。

当社の年齢構成では、30代前半までの女性がボリュームゾーンですので、まず彼女たちが定着し、さまざまな経験を積み、底力を付けるような仕組みにしていくことが肝要です。足元では、ロールモデルが必要です。早めに女性役員を誕生させて、このような道があるのだ、普通に実現できるのだという、象徴的な人事を早く実現したいと考えています。女性社員だけではなく、若い男性社員や就職活動中の学生に向けても大きなメッセージになると思います。

住友ゴムグループのサクセッションプラン

井川

次世代の経営人材の育成では、今ある機能のトップ、例えば人事総務本部でいうと人事総務本部長を計画的に育成する、といったタレントマネジメントの仕組みがすでにスタートしています。具体的には、各機能部門における人材の見える化において、ヒューマンスキルと課題設定解決力の両軸でプロットし、適正な候補者を明らかにするとともに、補強すべき点をターゲットとした育成メニューを組んでいきます。

2022年8月からは、その経営者版がスタートしました。各機能部門のトップあるいはそれに類する人を候補者に、座学や研修だけでなく、さまざまな経験や、タフアサインメントの付与に取り組んでいます。タレントについては、マネジメント系とスペシャリスト系の双方を対象としています。スペシャリスト系でも、突出した人材を見える化し、専門性が複数ある方が物の見方の広がり、経験を相対化できるため、違ったジャンルの経験をシステマティックに付与できるように心掛けています。

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チョルパン

例えば生産本部長、技術担当執行役員あるいは別の機能(財務など)の担当部長や執行役員が自分の専門分野については卓越した知識がありますが、取締役に就任すると、守備範囲が全社に広がり、ガバナンスや財務などさまざまな事柄が分からなければなりません。経営全体をある程度理解できる人材を育成していかなければなりません。

井川

スキルマトリックスに多くの丸を付けることができるということですね。

チョルパン

スキルマトリックスに丸一つではなく、社内取締役全体がスキルマトリックスのかなりの部分をカバーしないと、取締役会が十分に機能しないと考えています。

井川

今まさに、総務部ガバナンスチームが取締役の登用要件をまとめました。もっと魂を込めて40代や30代後半から本格的に経営者を育成する仕組みを動かしていくための取り組みを進めています。

其田

環境はこれからも大きく変わっていきますから、30代、40代の何百人のなかから、その時代にふさわしい人材を育てていかざるを得ないと思います。広い視野で柔軟な判断ができる経営者を育てるには、幅広い経験が不可欠ではないでしょうか。

チョルパン

リーダーシップは時代によって変わらない要素もあり、リーダーに適したタイプと、適さないタイプの人がいると思います。その一方で、時代によって変化する要素もあるので、それらをセットで考えていく必要があります。今から取り組めるものを明らかにし、このような経験をさせたい、このような知識を残したいと、さまざまなプランをつくっておくのが良いと思います。

井川

サクセッションプランでは、世界で成功している経営者の特性に関するデータベースも活用しながら性格診断を行って性格パターンの近い候補者を絞り込むなど、科学的な手法を採り入れています。

現在、関連会社含め4万人の社員のうち、3万2千人が外国人であるため、グローバル事業をどのように采配していくのかという観点から、グローバルな経験値や、そこに底力を発揮できる人間が良いだろうと考えています。

時代がいかに変わっても、求められる資質は普遍的

井川

2050年という時間軸で見たとき、どのような資質が必要になってくるかについては、時代が変わっても普遍的な資質があると考えています。まず、課題を設定する力。そして、課題解決力。そして、多くの人を巻き込んでいく人間力です。この3つを大まかに経営者、管理職、一般社員に分類しますと、経営者では課題の設定力、併せて問題に気付く力が最も求められます。管理職には、DXなどどのような仕組みを使って解決に導くかを考える力が必要です。一般社員では、実際のツールを使って着実に解決していく力ですそして人間力は、すべての階層で大切です。人間力のなかでも、マネージャー層以上においてはモチベーションを引き上げる力が欠かせません。一般社員では、互いの力を引き出し、協力し合える関係性を築くことも、人間力の要素です。

其田

2050年の世界では、想定しない出来事がものすごいスピードで起きてくるのだろうと想定されます。AIがどんどん採り入れられ、単純な作業はAIがやり、人間は、判断をする部分、将来を見据える部分を担うようになります。ここでは、柔軟な判断を迅速にできる人材が求められるでしょう。

経営層については組織のマネジメントができる人、そして、人材を育成できる人。その力が試される時代になると感じています。

人を育てるのは、与えるものと任せるもののバランスだと思います。与えるものとは、植物に水や肥料をあげるように、その人のスキルや知見を見極めて、方向性やヒントを与える。後は、任せて考えさせる。変化が激しいわけですから、自分の成功体験だけですべて解決できるわけではなく、“かつてはこうであったけれど、君はどう考える”というように部下に投げかけて任せていく。そのバランスは、いつの時代も変わらないと思います。

井川

リーダーシップにも、得手・不得手があります。個々の資質を最大限に発揮できるようにする、これこそが多様性のある人材マネジメントの本丸であり、個々人を輝かせるダイバーシティマネジメントといえます。

チョルパン

2050年には、女性であれ、外国人であれ、その時に必要になる知識、スキルとリーダーシップがある社員であれば、この会社の社長になれると思えるような雰囲気の会社になってほしいですね。2050年まで十分時間がありますが、その仕組みをつくるのは今しかありません。

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