ESG担当役員メッセージ

長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」の進捗

写真:取締役 常務執行役員 西野正貢

取締役常務執行役員ESG統括西野 正貢

「はずむ未来チャレンジ2050」が着実に浸透

このサステナビリティ長期方針を、2021年8月の決算発表時に公表して2年が経過しました。社内向けの報告会を開催し、各部門長との1 on 1ミーティングを行いトップダウンで進めるのと並行して、各グループや部門から集まった策定メンバーがボトムアップでも浸透活動に取り組むことでリテラシーが高まり、社員の間に浸透してきたとの手応えを感じています。
今年の役員の目標管理にESG経営に関する指標が組み込まれ、白河工場でのタイヤ製造時における水素利活用がスタートするなど、具体的な成果が現れており、このような長期的な目標を掲げることの重要性を強く実感しています。
この長期方針のもと、当社の独自性が活かせる取り組みとして、次の3つを特に注力して進めています。
1つ目は水素利活用です。製造工程で必要な燃料を天然ガスから水素に転換し、カーボンニュートラルを目指しています。
2つ目は「サステナブル原材料」の活用です。当社の「サステナブル原材料」の定義は、バイオマス原材料、いわゆる生物由来の原材料とリサイクル原材料を合算したものです。2022年度のサステナブル原材料比率は33%で、2030年までに40%まで高めるという計画を進めています。今後は、リサイクルカーボンなど、リサイクル原材料の採用を増やすことも検討しており、技術的には達成年度の前倒しも可能だと考えていますが、コストアップ分をどのように価格転嫁するか、あるいはコストアップ分を軽量化でどのように相殺するのかなどの課題が残っています。
3つ目は自社基準による「サステナブル商品認定制度」の創設です。具体的には、タイヤ、スポーツ、産業品のそれぞれの商品について、例えばサステナブル原材料の使用比率や製造時のエネルギー使用状況などで評価基準を設定し、その基準の達成度合に応じて、スタンダードとゴールドの2段階で認定する制度です。2030年には全商品でスタンダート認定100%という目標を掲げています。

figure

量産タイヤで、日本初となる「製造時(スコープ1、2)カーボンニュートラル」を実現

この3つの取り組みのうち、大きな成果を上げているのが工場における水素利活用です。
タイヤ製造時に使用するエネルギーには電力と天然ガスの2種類があり、電力については省エネルギーの推進、コージェネレーションシステムの拡大、太陽光発電の導入、再生可能エネルギー由来のグリーン電力の調達を軸にCO2削減を実現してきました。しかし、熱と圧力を加えてタイヤを作る「加硫工程」で使用する蒸気は、技術的に電力に置き換えることが難しく、このエネルギー転換が課題となっていました。
そのような中、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、福島県白河市にある白河工場にて、加硫工程で使用する蒸気を発生させるエネルギーを天然ガスから水素エネルギーに置き換える実証実験を進めています。2023年1月には、コンパクトな工程かつ非常に高性能なタイヤづくりを可能にする高精度メタルコア製造システム「NEO-T01」において、加硫工程に水素ボイラーで発生させた蒸気を供給し、その他の工程で使用する電力も太陽光発電パネルを導入することで、「NEO-T01」で使用する以上の発電が可能となり、日本初の製造時(スコープ1、2)カーボンニュートラルを達成した量産タイヤを実現しました。
今後の実証実験では、水素ボイラーを導入した際の課題となるNOx(窒素酸化物)排出量のコントロールをはじめ、24時間連続運転における課題の抽出と解消を行い、燃料の水素転換による有効性評価を行っていきます。
水素エネルギーへの燃料転換は、ボイラーあるいはタービンだけを置換すれば、残りの製造設備は基本的に変える必要がない点も大きなメリットです。白河工場では、全ての製造ラインでの水素利活用を目指しており、国内の工場全体に拡大した後、海外にも展開していきたいと考えています。
また、カーボンフリー、いわゆるグリーン水素の調達も検討しています。水素自体も福島県内の企業から供給を受け、水素地産地消モデルの構築を目指しています。

タイヤ事業における当社独自のサーキュラーエコノミー構想を策定

当社では、世界的にその実現が急務となっているサーキュラーエコノミーについて、タイヤ事業における当社独自の構想である「TOWANOWA(トワノワ)」を発表しました。この構想は、タイヤ事業における5つのプロセスで、効率的なモノの流れと資源の循環を目指す「サステナブルリング」と、当社独自の「センシングコア」を活用し、この5つのプロセスで収集したビッグデータをクラウド上で共有する「データリング」の2つの輪を結び付け、住友ゴムならではのサーキュラーエコノミーを構築します。
日本タイヤ業界のサーキュラーエコノミーへの取り組みでは、廃タイヤを燃やして熱として利用する「サーマルリサイクル」がタイヤリサイクル利用の約70%を占め、その他では摩耗したトレッドを復元するリトレッドタイヤ用途が約6%あるだけです。
「TOWANOWA」は、これらとは異なる発想で、当社独自のセンシング技術で収集する走行時のタイヤデータと、生産時のデータをリンクさせて、5つの各プロセスで活用するとともに、最終的にユーザーにフィードバックする取り組みである点が非常にユニークだと考えています。

ESG経営をさらに推進していくうえでの“壁”とは

ESG経営の推進組織であるサステナビリティ推進委員会は年2回、社長と全役員が出席し、グローバルなマネジメントレビューと拠点間の情報共有を中心に行っています。具体的な取り組みについては、担当者会議で討議しています。サステナビリティ長期方針策定時のメンバーに加え、全体で48人が参加しており、2023年からは会合の回数を年4回から6回とし、メンバーもさらに増やして活発に行っていく方針です。
このように、当社がESG経営を推進していくうえで重要視しているのは、トップ自らが理解者となり、推進役となっている点です。これは外部の専門家からも「推進のしやすさ」として評価をいただいています。
私は、サステナビリティ経営推進本部を長期的に魅力的な部門にしていくことを方針として掲げました。当社では、環境管理やD&Iなどサステナビリティに関連する業務の一部をプロジェクトとし、参画者を社内公募する取り組みを推進しています。プロジェクトに兼務で参画することで、サステナビリティの視点を本業の方でも取り入れる力が確実に身に付いています。このような経験をした人材が各部門で推進役となってくれることを期待しています。
また活動の裾野を広げるには、一人でも多くの社員にサステナビリティ関連の施策を『自分ごと化』してもらう必要があります。自分ごと化へのプロセスには、『認知する』、『理解する』、『当てはめる』、『貢献する』の4つの階層があると言われています。自分ごと化された『自分の業務として貢献する状態』となるには“壁”があると思います。最初のプロセスとして社員に広く当社のサステナビリティに関する情報・活動を発信し、また継続的にコミュニケーションできる仕組み作りを推進したいと考えています。
 サステナビリティは長期的に取り組んでこそ効果が生まれます。サステナビリティ施策にはコストアップを伴うものもありますが、業績への影響も考慮しながら持続的に取り組めるのかを見極めることも一つの“壁”になると認識しています。これは、事業部門や経営陣としっかり議論を尽くして企業として判断できる体制を強化していきたいと考えます。